私は本屋でバイトをしています。と言っても親戚の家の本屋で、街の小さな本屋なので店番程度だけれど。
小さい本屋なのでお客さんがとにかく少ない。しかし毎週決まった曜日に必ずやってくるお客さんがいる。



「いらっしゃいませー。」



自動ドアが開く音がして事務の作業の手を止めてみれば、その人がやってきた。やっぱりこの曜日で、やっぱりいつもこの時間。
お客さんもいないのにじろじろ見るのもあれなので、作業の手を進めながらその人をしばし観察する。
背が高くて学ランをびしっと着こなしている。髪は少しはねているけど、メガネのその奥の顔はなんともキリリとしてる。いわゆるイケメンだ。うん。雑誌や漫画のコーナーには目も向けず、いつも難しそうな本とにらめっこをしている。
私は高1だけれど、もしかしたら年上かな?雰囲気としてはなんか、生徒会長、みたいな感じ?



「すみません。」



きりっとした声に我に返ると、いつのまにかその人がレジの前に立っていた。私は急いでレジに入ると、その人は眼鏡を上げた。うわぁ、本当に背が高い・・・・。
レジの上には文庫が乗っているが、なんと洋書。本当にそんな雰囲気だよなぁ。



「カバーはおかけしますか?」

「お願いします。」

「はい、お待ちください。」



会計の間にカバーをかけようとその文庫に手を伸ばすと、財布を取り出したその人の鞄から私の足元に何かが落ちた。
私はしゃがんでそれを拾う。どうやらそれは生徒手帳のようだった。


青春学園中等部 3年1組12番 手塚国光


へぇ、手塚さんっていうのか・・・・・・・・え?



「青学・・・中等部!?」



そう言った私にその人、手塚君はまた眼鏡を上げた。そして咳払いを一つする。
私は我に返り急いで生徒手帳を彼に戻した。
せ、青学中等部・・・・・年下、なの!?



「あっ、ご、ごめんなさい。私も、青学の中等部だったので・・・。」

「そうですか。」



そう言って出されたお金を私は急いで精算すると、文庫にカバーをかけた。
手塚君はなんだか少し怒っているみたいで・・・・・もしかして私、気にしてる事を言っちゃったんじゃ・・・・・。



「・・・・・今は。」

「ふぇ?」

「今は、青学ではないんですか?」



変な声が出てしまった私に手塚君はそう続けた。あれ?



「外部入試して、今は一駅先の高校に・・・・。」

「そう、ですか。」



手塚君はそう言うと、また眼鏡を上げた。
すっかり止まってしまった私の手を見て、手塚君はレジの横に置いてあったシャーペンの芯を手に取った。



「すみません、これもお願いします。」

「あ、はい・・・。」


文庫にカバーをし終えると、シャーペンの芯を小さい袋に入れてまた精算をした。
その人はそれをどっちも鞄に仕舞うと、律儀に「ありがとうございます」と言って頭を下げた。



「また来ます。」



そしてそう呟くと、店を後にした。
人がいなくなり、また店には私一人だけになった。
・・・・・・年下なら、今度から手塚君と呼ぼう。そう勝手に決めながらまた作業に取り掛かり始めた。



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