(曖昧ラプソディと繋がっていないようで繋がっているような佐伯)剣太郎発案で六角テニス部納涼花火大会が行われることになった。まぁ、花火大会と言ってもパックになっている花火セットをみんなでわいわいやりながらやるだけなんだけど。
なんと剣太郎は招待状まで作り、ダビデの彼女ちゃんも誘ったらしい。しかも封にハートのシールまで付けて。拗ねるダビデの顔が目に浮かんだ。しかし家の店番で私は遅れてしまった。
「あっ、来た来た。」
私の姿を見てサエが笑った。オジイの家の縁側に回り込めばバケツを持ったサエだけがいた。
「部室にいなかったからこっちに来てみたけど・・・あー、やっぱり終わっちゃった?」
「第一陣はね。でも樹っちゃんもまだ来てないから、来たら第二弾やると思うよ。」
「みんなは?」
「バネとサトは花火の買い足し。後は、あっち。」
サエはそう言うと縁側を指さした。そこにはオジイの家の縁側で寝ている剣太郎の姿が。その隣に亮もいて、さらに奥でダビデと彼女ちゃんが一緒に寝ていた。それぞれに小さい寝息が聞こえる。
「あららー。」
「はしゃぎすぎて疲れたみたい。」
「樹っちゃん来るまで寝かせておいてあげよう。」
「うん。」
サエはそう言うと持っていたバケツを置いた。中には終わった花火の残骸が浮かんでいる。
「お店忙しかったのかい?」
「まぁ、今がかきいれどきと言えばかきいれどきとだからね。」
「流石に呉服店の娘、だね。」
私の家は呉服店を経営している。最近は着付けなどのサービスもやっているので、この時期は娘の私まで使って浴衣の着付けに大忙しになる。
今日もどこかで花火大会があるらしく、大忙しだった。まぁ、良いことなんだけど。
「お疲れ様。あっ、いいのがあった。」
サエはそう言うと私に手招きした。私は頭に?を浮かべながら近づくと、どこからか線香花火を取り出した。
「これだけ残ってたから、やらないかい?」
「でもいいの?」
「大丈夫大丈夫。でも、秘密だよ?」
サエは悪戯っぽくそう笑うと唇に指を当てた。全く、サエファンの子に見せてやりたいよ。
サエから線香花火を受け取るとその場にしゃがみこんだ。
「火はある?」
「あるよ。付けるけど、いい?」
「うん。」
サエが持っていたライターを付けた。火種が小さく火花が立ったが、すぐにぽとりと落ちてしまった。
「あっ。」
「まだあるから、はい。」
「ありがとう。」
サエはまた私に線香花火を渡すと私の隣にしゃがみこんだ。そしてまた火を付ける。今度は火花が大きくなった。
サエも自分の持っていた線香花火に火を付ける。
「綺麗・・・。」
「そうだな。」
「あっ、宿題終わった?」
「ははっ、俺が言うのもなんだけど、ムードないな。」
「サエとそういうムード作らなくてもいいでしょ?」
「そう?俺はあってもいいけどな。」
大きくなる火花を見つめながら、隣で笑うサエを睨んだ。
サエは持っている線香花火を私が持つ線香花火に近づけた。お互いの火花がぱちぱちと競うように大きくなる。
「そう言う君は終わったの?宿題。」
「大体ね。」
「数学だろ、残ってるの?」
「・・・そうです。」
「俺数学終わってるから、教えようか?」
「本当に?」
「あぁ、勿論。」
「じゃあお礼にサエが好きなゼリーを作ってあげるよ。」
「本当に?楽しみだなぁ。」
花火の明かりの下でサエがニコニコと微笑んだ。この笑顔は本当に嬉しい時の笑顔だ。
そんなサエの線香花火の火種が先にぽとりと落ちる。
「あ。」
「はい、サエの負けー。」
「あははは、勝ち負けあったんだ。」
「線香花火と言えばこれでしょ?」
「そう?」
「そう。」
「あははは・・・本当、君には適わないよ。」
「え?」
そう言ってサエが笑うと、私の火種もぽとりと落ちた。
最後の火花で見たサエの顔が少し赤く見えたのは、気のせいなのかもしれない。
「買ってきたぞー。」
「あっ、お帰り。」
「何だよ、もう線香花火やってんのかよ。」
「ごめんごめん。」
そんな中買い足しに行っていたバネとサトが帰ってきた。
二人の手に一つずつビニール袋がぶら下がっている。
「・・・2人とも、タイミングが悪すぎなのね。」
そして二人の後ろから樹っちゃんがやってきた。樹っちゃんはため息混じりにそう言うと、サエが苦笑いをした。
「追加の花火買ってきたぜ。」
「そんなに買ってきたの?」
「余ったらまたできるだだろ?」
「まぁ、そうだけど・・・・・。」
「クスクスクス・・・・。」
聞きなれた笑い声の方を見ればいつの間にか亮が起きていた。
「あ、起きたんだ。」
「大分前からね・・・クスクス。」
髪をかきあげながらそう言った亮に、またもサエは苦笑い。
「さ、お前ら、第二弾始めるぞ!!」
バネがそう声を上げると剣太郎のお腹をチョップした。飛び起きた剣太郎と、少し向こうで体を起こして隣にいるダビデに驚いている彼女ちゃん。それを見ながらバネがサンダルを脱いでダビデを蹴っている。
「また海かな?」
「だろうね。」
私とサエはそう言って顔を見合わせると、同時に吹き出した。
12.8.13
←