「のぉ、蝶子。」
帰り際に(一応)彼氏である仁王が何やらにやにやしながら私に話しかけてきた。
「にやにやしとらんじゃろ。」
「してるよ、鏡見なよ。」
「あと一応はいらん。正真正銘の彼氏じゃ。」
「で、何?」
「なぁ、相合傘して帰らんか?」
相変わらずにやにやしながら、
「だからしとらんって。」
「ちょっと心を読むのはやめてくれ。」
仁王の手には黒い傘が握られていた。
しかし雨は降っていない。それどころか清々しいぐらいの青空が広がっている。
「何で?」
「お前さんと相合傘したいから。」
「いやいやいや、雨降ってないから。見なよ、晴れてるよ。」
「安心しんしゃい、これ日傘と兼用のやつやから。」
いや、そんな情報知らないし。というか何で男のお前がそんなのも持ってるんだよ。
大抵の対処方は心得ているつもりだが、こんな時のマニュアルは柳君や柳生君にもまだ教わっていないぞ。
「なぁ、いいじゃろ?」
「うーん・・・・・・。」
「それじゃ、行くなり。」
「えぇ!?私まだ否定も肯定もしてないんだけど!?」
「お前さんのマニュアルにそう書いてあったなり。」
「え、私のマニュアル!?」
「ピヨ。」
仁王は楽しそうにそう言うと、バッと黒い傘を開いた。意外と大きい。
そしてそれを肩に担ぐと、おもむろに私の隣によってきた。
「何じゃ、俺と相合傘するのは嫌か?」
「別に嫌ってわけじゃないけど・・・・。」
「ならOKじゃな。」
仁王はそう言うとゆっくり歩き出した。
私もそれに合わせて歩き出すと、太陽がさんさんと輝いていた。
・・・・普通に帰っていたら日焼けしてたかもしれない。
「そうじゃろ、そうじゃろ。俺に感謝するなり。」
「だから心を読むのはやめてってば!」
「プリっ。」
なんかむかついたのでそう言ってくつくつ笑う仁王の手をつねってやった。(びくともしてなかったけど)
「いやぁ、暑さはしのげるし、蝶子と帰れるし、一石二鳥じゃのぉ。」
「それもマニュアルに載ってるの?」
「・・・・・さて、どうかのぉ?」
・・・・・・まぁ、そう言って嬉しそうに笑った彼氏の姿が見れたら今日はよしよう。
+++++
仁王は日傘男子な気がする。
あ、柳生もか?
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