(曖昧ラプソディと繋がっていないようで繋がっているような佐伯)珍しくダビデが練習中にサーブミスをした。しかもそれで1ゲームを落としかける始末。たまにダジャレを考えてるとサーブミスしたりするが(その後大抵バネに蹴られるが)、今日はそれ以上に酷い。おまけに頭冷やしてくる、とか言って一人で浜辺にランニングに行ってしまった。
流石に何かあったのではないかと思いサエを見つめれば、どうやらサエも同じような事を思っていたらしく微笑んだ。そしてベンチから立ち上がる。
「部活が終わったら聞いてみるよ。」
サエはそう言うと剣太郎と打ちに行ってしまった。
そして部活終わり、ようやく浜辺から帰ってきたダビデにタオルを渡す。
「お疲れ様、はいタオル。」
「ありがとう。」
「ねぇ、ダビデ。」
タオルで汗を拭うダビデに珍しく部誌を書いているサエが声をかけた。
「何、サエさん。」
「彼女と何かあったのか?」
そう言ったサエにダビデの動きがピタリと止まった。そしてゆっくりサエの方を向いたダビデの整った眉が下がった。
「・・・何で分かったの?」
「やっぱり。ダビデがこうなるのはダジャレが不調な時か、彼女の事で悩んでる時かの2つしかないかなと思って。」
サエは笑顔でサラッと言ったが何気に酷いこと言ってるって気づいてるだろうか?
書き終わったのか部誌を閉じて私に渡すと、サエは面白そうに肘を付いた。
「で、何したの?」
「・・・・何かしたいとは思ってる。」
ダビデはそう言いながらタオルを肩にかけると、近くの椅子に座った。
「・・・・誕生日。」
「誕生日?」
「今度、あいつの誕生日らしくて・・・・。」
小さくそう言ったダビデはますます眉を下げた。
サエは「なるほど」と呟くと、「うーん」と言って腕を組んだ。
「何かしてあげたい、って事なんだね。」
「そう。」
「だったらあれいいんじゃない?」
「あれ?」
・・・嫌な予感しかしなかった。
「自分がプレゼント、ってやつ。」
・・・予感的中。笑顔で何を言ってるんだこいつは。
私は持っていた部誌をそんな頭の上に降り下ろした。
バシンといういい音がすると、サエが「いたっ」と思ってもいないような声を出した。
ダビデは驚いたみたいで目を丸くさせている。
私はそんなダビデを見ながらため息をつくと、サエの頭から部誌をどかした。
「ダビデ、サエの言葉なんて綺麗さっぱり忘れなさい!」
「う、うぃ。」
私がそう言うと、サエが頭をさすりながら「容赦ないなぁ」と呟いたが無視した。
ダビデはそんな私を見ながら肩にかけていたタオルを取った。
「それに大丈夫。彼女ちゃんはおめでとうの言葉だけでも喜ぶと思うよ。」
私の知る彼女ちゃんは本当にそういう子だった。羨ましいぐらい。
ダビデは何も言わなかったけど、私の言葉は受け入れてくれたみたいだった。そして立ち上がる。
「もうちょっと、考えてみる。」
「まぁ頑張れよ、ダビデ。」
「・・・うぃ。」
そう言うとダビデはまた部室を出ていってしまった。
受け入れてくれたみたいだけれどダビデの事だからきっとまた物凄く考えるに違いない。
そんなダビデの背中を見送りながらそんな事を思った。
「可愛いよね、ダビデも。」
同じようにダビデを見送っていたサエが面白そうにそう言った。
私はため息を付くと、ダビデが座っていたイスに座る。
「そんな可愛い後輩をからかって面白いの?」
「面白いよ。でも、いたって真面目に答えたつもりなんだけどなぁ。」
サエはそう言うと、立ち上がった。
サエのアドバイスは時々的確だけれど、時々みんなを混乱させる。本当に困った奴です。前に樹っちゃんがそう言っていたのを思い出した。
「誕生日かぁ、俺も彼女に何かあげようかな。」
「やめなよ、またダビデが拗ねるから。」
「本当に可愛いよね、あの2人。」
笑いながらそう言ったサエはロッカーの中からバックを取り出した。そしてバックを肩にかけると、くるりと振り返った。
「勿論、君もね。」
笑顔でそう言うサエにまた部誌を食らわせる。しかしサラッとそれを避けるサエ。
私は部誌を押し付けると、イスから立ち上がった。
本当に困った奴だ。
12.6.25
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