(曖昧ラプソディと繋がっていないようで繋がっているような佐伯)ここ最近サエの様子がおかしい。
バネが簡単に「調子が悪そうだな」と言っていたけどあながち外れていないと思った。大好きなテニスをしているのに、何だか苦しそうだった。
部誌を今日こそは剣太郎に押し付けると、サエの姿がいつの間にか消えていた。
「サエならきっとあの場所なのね。」
隣にいた樹ちゃんがそう言った。
私の考えていた事が分かっているみたいだ。
「きっと行ってあげたら、喜ぶのね。」
「私が?」
「そう、俺達じゃダメなのね。」
樹ちゃんはそう言うとにっこり笑った。
私は返事も何もせずにただ、あの場所に向かった。
あの場所というのは小さい頃からサエが好きな磯の事。岩がごつごつしてて歩きにくかったのだけどそこから見る海が好きだとサエが言っていた。
到着してごつごつした岩場を歩いていくと、見慣れた背中が見えてきた。
私が声をかけようとするより先にサエが振り向いた。
「手、貸そうか?」
「大丈夫。」
小さい頃は一人で行くのが大変で、サエがよく手を繋いで来たっけ。
サエは「そっか」と呟くといつものように微笑んだ。
でもどこか元気がなかった。
「やっぱりここだったか。」
「探してた?」
「まぁ。」
ようやくたどり着いてサエの隣に座れば、サエは海を見ていた。沈みかけの太陽が海とサエを照らしているみたいだった。
「ようやく剣太郎に部誌押し付けたよ。」
「困った部長だな。」
「人事みたいに言わないでよ、副部長。」
「あははは。」
サエは海を見つめたまま力なく笑うと。ふと私の方を向いた。
「・・・・よくここだって分かったね。」
「まぁ、伊達に幼なじみって呼ばれてませんからね。」
「そっか、幼なじみか・・・・・。」
サエはまた呟くようにそう言うとまた海を見つめた。
いつもならここぞとばかりに「運命だね」とか言ってのけるのに今日はそれもなかった。
「珍しいね、サエがサーブ全然決まらないなんてさ。」
「うん。」
「スランプ?」
「かもしれない。」
「・・・・それはないな。」
「何で?」
「何でも。」
「えー。」
「サエなら、スランプだって口説いてファンにしちゃうでしょ?」
突拍子もない事を言ってるなーって自分でも分かってる。サエだって驚いたように私を見つめている。
しかしサエはやがて声を上げて笑い出した。
「・・・そんなに面白かった?」
「うん。そっか、そうだよな・・・・。」
サエはそう言うといつものように笑って私を抱きしめた。
驚く私にサエは腕の力を強める。
「ありがとう。」
「え?」
「いつも俺を見つけてくれて。」
囁くように、でもちゃんと聞こえたその言葉に私はため息をついた。
「まぁ、伊達に幼なじみって呼ばれてませんからね。」
「やっぱり運命かな?」
「サエが本当にスランプになったら、一緒に砂の城崩してあげる。」
「君が作るの?」
「勿論サエが。」
「俺なんだ。」
サエはそう言うとまた声を上げて笑う。そして私を抱きしめる腕に力をこめた。
ようやくいつものサエに戻ってきたみたいだ。やっぱりらしくないサエなんて、見たくない。しかし調子に乗らせないために私はそのままサエの頭を撫でた。少しだけ早くなってる自分の心臓は無視した。
仕方がないから暫くはこのままでいてあげようと思った。
12.6.1
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