(曖昧ラプソディと繋がっていないようで繋がっているような佐伯) 六角のお花見会は今年もテニス部で集まっていた。コートに近い桜の下で持ち寄ったお菓子やら樹ちゃんお手製のお弁当やらが広げられている。
「あれ、ダビデは?」
見回せばダビデがいなかった。
飲み物が入った紙コップを2つ持ちながらやってきたサエが私の隣に座った。そしてそれを私に差し出す。
「彼女連れてくるってさ。」
「あぁ、剣太郎に急かさせれたからなぁ。」
「君も加わってただろ?」
「そりゃぁ、いろいろ聞いてみたい事とかあるからね。」
剣太郎がダビデに彼女ちゃんを連れてこい!って言い出し、私もそれにのったのだった。
だっていろいろ聞いてみたいじゃない?ダビデのダジャレのどこが面白い?とかさ。
私は紙コップを受け取る。
「ありがとう。なんかさ、去年のお花見会思い出しちゃったなぁ。」
「あぁ、あれ。」
「ロミオの格好のまま乾杯したのは面白かったなぁ。」
「あれはバネが無理やり引っ張ってきたからだよ。俺としては着がえたかったのに。」
「あはははは。」
ちょっと困ったようにサエは笑った。
去年のお花見会でサエはロミオとジュリエットのロミオをやった。すごい黄色い声が飛んでいたっけ。
「でもロミオとジュリエットも大成功したんだしよかったじゃない。」
「俺は君がジュリエットでも、」
「はいはい。」
「まだ言い終わってないんだけど、俺。」
「聞かなくても大体想像つく。」
「ダビデまだ来ないの?」
私がサエをかわすと、痺れを切らしたらしい剣太郎が辺りをキョロキョロとし始めた。
「もう少しで来るはずだから待ってろよ。」
「それにしても遅いよ。」
「まぁ、15分ぐらいたつかな。」
「よーし、部長として僕が迎えにいきます!」
剣太郎はそう言って立ち上がると靴を履いた。
それを見ながら亮がいつものようにクスクスと笑っている。
「ダビデ彼女とお花見デートでもしてるんじゃないのかな?」
「ちょっと亮!剣太郎に聞こえるでしょ!」
「じゃあ言ってきまーす!」
「あっ、剣太郎!」
サエが剣太郎の背中に声をかけるが、剣太郎はそのまま走っていってしまった。
「あーあ行っちまったな。」
「どうする?」
「俺が追いかけるよ。副部長としてダビデに、というか彼女に悪いからね。」
サエはそう言うと紙コップを置いて立ち上がった。
亮が言うように二人でいるなら、剣太郎が邪魔したら彼女ちゃんに悪いからなぁ。
「サエ、私も行くよ。」
「いいのかい?」
「マネージャーですから。」
「あはは。」
私も紙コップを置くと、クスクスと亮が私に向かってまた笑った。
「行ってらっしゃい、サエとのお花見デート。」
私は立ち上がるとそう呟いた亮のキャップを外した。そしてバネの方に投げると靴を履いた。
その後後ろから聞こえた亮の声は無視した。
「亮、何だって?」
「何でもない。」
サエにそう返すと剣太郎の背中を追うために歩き出す。
「綺麗だね、桜。」
「あっ、うん。」
少し先を歩くサエが桜を見上げながらそう言った。
「俺達ものんびりデートしちゃう?」
「剣太郎を追うのが目的でしょ?」
「俺、君のそういう所好きだなぁ。」
「え?」
「おーい、剣太郎!」
サエは剣太郎の名前を呼ぶと走り出した。私も急いでその後を追う。
桜をバックに笑うサエは去年のロミオよりも綺麗だった。
12.4.7
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