この世には別にそれを食べなくても生きていけるという食べ物が存在する。そう、存在するんだよ!
「蝶子、またトマト残してる。」
「う・・・・・。」
目の前にいるサエが少し目を鋭くしてそう言った。
なんでこの男はいつもこういう所に目を付けるんだよ。
「だ、だって・・・・。」
「ちゃんと食べないと大きくなれないよ?」
「剣太郎と同じ言い方しないでよ。」
目の前のミニトマト。
ミニ、って名前だけどトマトなんだよ。小さくてもトマトはトマトなんだよ。
「プチっと的に当たるプチトマト・・・・ぷっ。」
「つまんねー。」
「いたっ。」
斜め前に座るダビデに私の隣に座るバネが蹴りを入れた。
地味に痛かったらしくダビデはちょっと涙目だ。
「ダビデー。」
「何?」
「今のダジャレ面白かった。」
「本当に!?」
「うん。だから座布団の代わりにこのプチトマトあげるよ。」
「いらない。」
即答で断られた。
今だ涙目のダビデはストローでジュースをすする。
サエがチラシを取り出して、私の前に置いた。見れば近所のコンビニのチラシだった。
そこには新商品のスイーツが大きく載っている。これは私がずっと食べたかったやつだ!
「それ食べたら、これ買ってあげる。」
「ほ、本当に!?」
「ちゃんと食べたらね。」
「・・・・・・・・。」
サエはそう言っていつものように微笑むと、お弁当箱のふたを閉めた。
私は今や敵と言っても過言ではないプチトマトを見つめた。
いやね、トマトジュースとかケチャップは大丈夫なんだよ?でも実物がダメなんだよ。
小さい赤い物体とにらみ合いを続ける。
「あっ、そうだサエさん。俺聞いておきたい事あったんだ。」
そんな私をよそにダビデがサエに話しを始めた。「何?」と聞くサエの視線が私からダビデに移る。どうやら来年の事を考えていろいろ聞いていきたいという事らしい。
私はそんな二人の会話をBGMにしてゆっくりとプチトマトに手を伸ばす。
「蝶子。」
そんな私に隣のバネが小声で私の名前を呼んだ。「何?」
「お前、ブロッコリーは食えるか?」
「え、うん食べれる。」
「そ、じゃぁ。」
バネはそう言うと私の敵・プチトマトをつまむとそのまま自分の口に放り込んだ。
唖然とする私にバネは自分のお弁当箱に入っていたブロッコリーを私のお弁当箱に入れる。
「いいから、それ食え。デザート買いに行くんだろ?」
「・・・・・うん。」
私は話しているサエの目を盗んでそのブロッコリーを口に入れた。
するとバネが「ごちそう様」と言って手を合わせたので、私も一緒に手を合わす。
「あっ、蝶子、プチトマト食べたんだ。」
「あっ、うん・・・・。」
「やればできるじゃないか。」
サエはダビデとの話を中断してそう言うと、笑った。
バネの方をちらりと見れば、何事もなかったかのようにお弁当箱をしまっている。
「味はどうだった?意外と美味しいだろ?」
「えっと・・・・・・うん。」
「それはよかった。」
「ねぇ、ダビデ。」「何?あっ、これは俺のスイーツだからあげない。」
「そうじゃなくて。」
「じゃぁ、何?」
「バネって・・・・。」
「バネさんがどうかした?」
「バネって、ブロッコリー嫌いだったり、する?」
「ブロッコリー?」
「うん。」
「いや、そんな話しは聞いた事ないけど。」
「そうなんだ・・・・・。」
「バネ。」
「どうした、サエ。」
「どうした、じゃないよ。あんまり蝶子を甘やかしちゃダメだよ。」
「あっ、お前まさか俺が変わりに食ったの気づいてたのか?」
「当然。」
「・・・・・まぁ、今回は見逃してやってくれよ、な?」
「・・・本当に、バネは蝶子に甘いね。」
「・・・自覚はある。」
「あるんだ。」
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