山吹中2年、藤咲蝶子。
王子様に会いました。
名前は・・・・・まだ分からない。
分かっている事と言えば、テニス部の3年生であること。そして、ダブルスだということ。
「ダブルスってもしかして・・・・・ジミーズの事?」
「わぁ!!」
後ろを振り向くと、そこには千石先輩の姿があった。
にこにことしながら腰に手を当てる。
「今日も見学かい?」
「まっ、まぁそんな所です。」
「ふーん、王子様ねー。」
「えっ、何でそれを?」
「漏れてたよ、考えが。」
そう言ってにやりと笑うと、ラケットを肩に担いだ。
そして指を鳴らすと、私の肩に手をのせる。
「あっ、もしかしてそれって俺?」
「違います。」
「わー・・・・相変わらず早いねー、返しが。」
そう、千石先輩とはご近所さんなので小さい頃からこんなばかり。なので今ではしっかり免疫が付き、受け返しもこの通り。今もナンパとかしょっちゅうしているらしく、クラスの女の子からもそんな事をちらほら聞いている。しかしそんな事を言われても残念がるそぶりは一つも見せずに、千石先輩は私の肩から手を離した。
「俺じゃなくて3年でダブルスなら、やっぱりジミーズのどっちかか・・・。」
「ジミーズ?」
「あれ、知らない?うちの最強ダブルスで、地味に強いからジミーズ。」
「へー・・・・・。」
「知らなかったんだ。」
「こら、千石!!」
千石先輩と私に聞き覚えのある声が届いた。その声にドキリとする。
見れば千石先輩と同じユニフォームを着た人がこっちに走ってくる。
「またナンパか?いい加減そのどうしようもない女好きをどうにかしろ!」
「あっ、蝶子ちゃん。こいつがさっき言ってたジミーズの・・・。」
私の前に来たその人を見つめながら、私は一歩後ろに下がる。
千石先輩の説明が耳に入ってこなくなった。
わぁ・・・・・・・王子様が私の目の前にいる!!!???
「・・・って、蝶子ちゃん聞いてる?」
「はっ!ごめんな・・・わぁ!!」
千石先輩の声で我に返った私は、足元に転がっていたボールを踏んだ。そのまま前に倒れて、顔から地面とこんにちわをした。
「おい、大丈夫か?」
「蝶子ちゃん、大丈夫?」
「ふぁい・・・。」
王子様の前で変な声が出た。死ぬほど恥ずかしい。
顔を上げれば王子様が心配そうに私を覗き込んでいて、おまけに私の手を取って起き上がらせてくれた。
そんな姿も本当に王子様・・・・・。
「ボールがこっちまで飛んでたとはな・・・すまん。」
「いっ、いえ!!転んだのは完全に私の不注意ですからぁ!!」
「あららー、おでこが擦り剥けてる。」
「本当だ。保健室に行ったほうがいいな。」
「いや、いいです!そんな!お手を煩わせるような事!!」
唯でさえ王子様とこんなに近くで見れておまけにお話までできてるのに、これ以上だなんて!!
それに王子様も千石先輩もこれ以上私なんかに時間をかけてたら部活ができなくなってしまう。
「ダメだ!傷がひどくなったらどうするんだ!?」
「で、でも・・・・・。」
王子様が私の手を掴んだ。それだけで私はもうパニックになって、あろうことかその手をはじいてしまった。
驚きの表情の王子様。そんな王子様の顔を見て、しまったと思い急いで立ち上がる。
「だだだだ大丈夫です、いろいろありがとうございます!」
「えっ、あぁ・・・・・。」
「部活頑張って下さい、それじゃ失礼します!」
「あれ、蝶子ちゃん?」
私はそう言うと一目散にその場から逃げ出した。
ごめんなさい王子様、やっぱり私はまお姫様のおの字にも遠いみたいです。恥ずかしさに顔を火照らせながら私は走った。
・・・・後で千石先輩に名前だけでも聞いておこう。
「あぁ、行っちゃった。」
「そう、だな・・・・。」
「それにしても・・・・・・。」
「何だよ千石。俺の顔に何かついてるか?」
「まさか南が王子様って・・・・・・アンラッキーだなぁ。」
「は?」
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