「はい、バレンタイン。」

「は?俺に?」

「うん。」



私が差し出したバレンタインを柳沢は目を丸くして見つめた。いくら何でも驚きすぎだ。



「そんなに私からのバレンタインは意外?」

「いや、それは・・・でもまぁ、まさか貰えるとは思ってなかっただーね。」

「うふふ、嬉しい?」

「まぁ・・・。」

「微妙な顔だね。」

「・・・顔は元からだーね。」



柳沢はただでさえアヒル口な唇をさらに尖らせながらそう言った。そしてようやく私のバレンタインを受け取った。
中身はクッキー。ドライフルーツがトッピングされたビターなもの。ラッピングだって柳沢が好きそうなものを選んだ。リボンはインディゴブルー。好きな色でしょ?
柳沢を見れば何とも複雑そうな顔をしていた。失礼しちゃう、頑張って選んだのに。



「そもそも、何で俺になんだーね?」

「いつもお世話になってるお礼。」

「お礼・・・。」

「別にホワイトデーに倍返し期待してたりとか全然ないよ??」

「・・・本音が盛れてるだーね・・・はぁ。」

ため息を付いた柳沢は私のバレンタインを仕舞うと、代わりに小さい赤い箱を取り出した。リボンの横には小さな赤い薔薇の、蕾。



「もしかして、私に!?」

「・・・まぁ、そうだーね。」

「嬉しい、ありがとう!!」



私はそう言うと柳沢に抱きついた。少しよろける柳沢の顔がみるみる赤くなっていく。可愛いなぁ。



「ちょっ、ちょっと、は、離れ、」

「えー。」

「えー、じゃないだーね!!全く・・・。」


柳沢は私を無理やり引きはがすと、私に赤い箱を押し付けた。
私は渋々それを受け取ると、ちいさい赤い箱を開けた。



「あ、キャンディ?」

「・・・こういうの、好きだと思っただーね。」

「うん・・・大好き。」


箱の中には小さな色とりどりのキャンディが。1粒摘んで口に含むと甘さがじわんわり滲むみたい。もう1粒を取って柳沢の口に放り込めばまた赤くなる。
するとひらりと赤い薔薇の蕾が足元に落ちた。私はそれを拾うと、蕾に口付けてみた。



「ふふふ、ありがとう。」

「・・・・・・どうも、だーね。」



赤い薔薇の蕾の花言葉は・・・何だったかな??
その時ポケットに入れていたスマホが鳴った。取り出してディスプレイを確認する。途端に柳沢の顔がまた微妙なものになった。本当に可愛い。



「ごめんね、もう時間だから行かなくちゃ。」

「そ、そう・・・。」

「ありがとう柳沢、またね。」



私はそう言って今度は柳沢のほっぺに口付けた。そして手を振りながら走り出す。
振り返って柳沢がどんな顔してるのか見たいけれど、それはまた今度のお楽しみにしよう。



「赤い薔薇の蕾は、『愛の告白』ですよ。」

「え?『貴女に尽くします』じゃないの?」

「貴女にとっては、でしょう?」

「でも、どちらもそんなに変わらないじゃない?」

「はぁ。」



溜息をついたはじめは手の中でくるくる回る赤い薔薇の蕾を見た。
そして髪を弄っていた手で赤い薔薇の蕾を握りつぶすと、目を細くして私を見つめた。



「うわぁ、酷い。」

「貴女には負けますよ。」



その言葉を聞くと私はゆっくりと彼の手を取ったのだった。


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