今日はサエの誕生日。学生時代から誕生日はそれはそれはモテモテであり、いつも両手一杯にプレゼントや手紙を貰ってくる。それは前日であった昨日もそうで、それはそれは沢山のプレゼンを貰って帰ってきた。同僚から清掃のオバサマまで・・・それはそれはモテモテ。



「蝶子、水。」

「はいはい。」



そんな男が誕生日に砂浜で砂のお城を作ってるなんて誰が想像するだろうか?
サエは首にかけていたタオルで汗を拭うと、立ち上がって膝についた砂を払った。



「出来た。」

「今年も凄いね。」

「今年はモンサンミッシェルを意識して作ってみたんだ、どう?」

「どう、と言われてもね・・・。」



サエと私の足元には小さな砂のお城。私は水をかけたりしただけで、殆どサエの作品。相変わらず器用だけれど、夕暮れにいい歳した男女が浜辺で砂のお城を作っているなんて、傍から見たらとてもとてもシュールだ。
私達は毎年こうしてお城を作っている。去年は何故か五重塔を作ってたし、学生時代はスカイツリーを作ってちょっとした話題にもなったりしたっけ・・・。



「あー、やっぱり砂の城作るのは楽しいな。」

「そう?」

「あぁ、無心になれるから。」

「誕生日に?」

「この所なにかと忙しかったからね。」

「まぁ、そうだね。」

「あー、これで彼女の手料理とかあったらもっと楽しんだけどなぁー。」



サエはそう言うと私の方をチラッと見た。そんな視線に私も立ち上がると、ため息をついた。



「樹っちゃんの所行くって言ってなかったっけ?」

「残念、今日は樹Jrの運動会だから鰯庵はお休みなんだ。」



樹っちゃんJrとは樹っちゃんの息子君の事。幼稚園での初運動会という事か。お店を休んで参加せざるを得ないな。
佐伯はなんとも似合わない小さい子が持つようなバケツとスコップを波打ち際まで運ぶと、波で濯いだ。キラキラ輝く波間がサエのミルクティー色の髪をより輝かせる。



「それに、今日は同棲初めて2年目の記念日だよ。」

「もう2年か・・・というか、サエって意外とそう言う記念日こだわるよね。」

「そうかな?」

「そうだよ。」



サエは意外と記念日にこだわっていると思う。本来そういうのは女性の方が、ってなるだろうけど私はそういうのには疎い方だ。しかしサエは細かくそれを覚えていて、例えば友達の誕生日とか初めてデートした日とか・・・。
そう考えるとサエと記念日が出来るぐらい一緒にいると言う事・・・。何だか不思議な気分だ。お互いの誕生日を祝うのも何回目だろう。



「じゃあケーキでも買って帰る?」

「いいね。じゃあダビデからオススメされた駅前の所に行こう。」

「いいよ、スーパーにも寄りたかったし。それに、サエの誕生日だし。」

「ははっ、俺の誕生日はついで?」

「何作ろうかなー。」

「ハンバーグ食べたいなぁー。」

「・・・仕方がないなぁ。」



私は笑いながらそう言うと、波打ち際のサエの隣まで近づいた。足に波が押寄せてきて足の裏の砂が流れていくのが分かる。この感覚はいつでも一緒なのに、サエとの距離が近くなるにつれてふわふわとしていくこの気持ちはいつも違う。
物凄く好きな時と物凄く微妙な時がある。まぁ、微妙な時っていうのは段々減って来てる気がするけど。
そんな事を考えていたら右手にサエの手が絡まった。見ればなんとも柔らかい表情のサエが。この表情は私しか知らないと知ったのはつい最近というのはサエには秘密だ。



「ケーキにロウソク貰う?」

「歳の数?ケーキが穴だらけになるなぁ。」

「昨日のカレーが残ってるから、カレーハンバーグにします。」

「俺も手伝うよ。」

「いいよ、誕生日なんだから。」

「誕生日だから、手伝うよ。」

「何それ。」

「だってその方がより楽しいだろ?」



サエは甘い。それは私にだけだって樹っちゃんが言ってた。樹っちゃんが言うんだから間違いない、と思いたい。
キラキラ輝く海を見ながら私はサエの手を握り返した。



「なぁ、蝶子。」

「何?」

「・・・もう一つ記念日作らない?」

「もう一つ?」

「・・・あー、その、つまり・・・。」



珍しく歯切れ悪くそう言ったサエは握る手に力をこめた。
そこで私はようやくサエの言わんとする事を理解した。つまり、それって・・・。
視線を外したサエの顔は少し赤い気がする。



「それってあの、結婚記念日、的な・・・?」

「・・・うん。」

「・・・。」

「その方が覚えやすい、だろ?」



そう言ったサエは私の方をようやく向いて赤い顔のまま微笑んだ。まぁ私も同じような顔をしているに違いない。



「返事は急がないし、いつでも、」

「いいよ。」

「え?」

「だから、いいよ。」



私はサエの手を強く握り返した。唖然としてるサエの表情に何だか笑えてくる。



「断って欲しかった?」

「いや、まさかあっさりOKになると思わなかったから。」

「私は素直なんです。」

「あはは、うん、知ってる。」



サエはそう言うと繋いだ手をブンブンと振り出した。何だか幼い頃に戻ったみたいだ。



「さぁ、ケーキ買いに行こう。」

「スーパーもね。」

「ホールにしよう。」

「食べきれる?」

「余ったら、また明日一緒に食べよう。」



そして私達は歩き出した。波打ち際で波を蹴って、手を繋いで、2人で。
きっとこれからも私達はこんな風にお互いの誕生日を祝ったり、記念日を増やして行くのかな。
ふとサエを見れば柔らかい、私の好きな笑顔のサエがいた。この笑顔が実は大好きだって事も秘密だ。
キラキラ輝く波打ち際に2人の未来が見える気がした。

2016 Birthday.


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