キスしたい。
先に言っておくが、別に欲求不満という訳ではない。
平古場凛が私の彼氏になったのは一年前。海で一目惚れした私は彼とお近づきになるために同じ高校に入学。同じ学年じゃなかったらどうしよう、という私の心配をよそに同じクラスになった。そして猛アタックの末に平古場凛の彼女という立ち位置をゲットしたのだ。
・・・・・・したまではよかった。そこからというもの、びっくりするほど何も無い。いや、手は繋いだ。デートにも何回か行った。しかし、彼女らしい事は一切なかった。抱き合う、とかもないし。勿論キスも。
凛と仲がいい木手君に聞いてみたが、『無理矢理ゴーヤーでも食べさせてみてらどうですか』と、全く為にならないアドバイスを貰った。というか凛はゴーヤー物凄く嫌いなんじゃなかったっけ?
このままではいかん!!そう決意した私は1度学校の屋上で寝てる凛にキスしようとした。でもそれは甲斐君に面白おかしく阻止された。
しかしこんな事では諦めない!!夏休みも始まった事だし海に誘う事にした。



『海行かない?』

『行かない。』



会話が終了。私は急いで話を続けようとするも、凛の表情は険しい。



『海なんていつでも行けるだろ。』

『そう、だけど、ほら、私1人じゃ、ナンパされちゃうかもしれないし!』

『ナンパぁ?やーがか?わんじゃあるまいし。』

『ひ、酷い、ってかナンパされた事、やっぱりあるんだ・・・。』

『前にな、海入ってたら後ろ姿だけで野郎に声かけられた。』

『男に、ですか。それはそれは・・・。』

『でもまぁ・・・かき氷奢ってくれんなら、行かないでもない。』



そしてこの言い方である。ずるい、可愛い。
私は彼に『絶対だからね!』と言いつけてようやく海に行く約束をこぎつけた。
そして次の木曜日。私と凛は近所の海に来た。
ここはあまり観光客もいない浜辺なので、デートにピッタリ☆と思ったのも束の間だった。



『最悪。』

『どしたの?』

『髪縛るゴム忘れた。』

『あ、私のシュシュ、』

『いい、取ってくる。やーは先に海さ入って待ってろ。』



凛はそう言うと足早に来た道を戻って行ってしまった。凛の家はそう遠くないからまぁいいけど、彼女を1人残して行くってどういう事だよ!?
私はぷりぷりしながら荷物を浜辺に放り投げると上着を脱いで海に飛びこんだ。
海水は冷たくて気持ちよかった。少し沖まで泳いで行って潜ってみた。綺麗な青が広がっていた。一旦海面に出ると白い砂浜もキラキラしている。
・・・やっぱり1人は寂しいな。と思った矢先に右足が突然つった。痛みで思わず口を開けてしまい、大量の海水が口の中に流れ込んできた。溺れる、と思ってはいるけど、右足が動かずどうにもできない。
海の青も陽の光にキラキラと輝いていた。まるで凛の髪みたい。ぼんやりそんな事を考えながら、私は意識を手放した。




「蝶子、おい!」



聞きなれた声にうっすら目を開けると途端にむせた。それに何だか口の中が塩っ辛い。


「よかった。気がついた・・・。」



凛はそう言うと私を抱きしめた。
えぇ!?!?い、いきなりのそれは私には刺激が強すぎます、凛さん!?!?言葉にならないパニック状態の私をよそに凛が私の頭を優しく撫でる。凛の手の温度に凄く安心する。



「あんましわんに心配かけさせんなや。」



凛のその呟きで自分が溺れて凛に助けられたのだと気づいた。私は凛の胸を押すと顔を上げる。



「溺れたんだよね、助けてくれてありがとう。」

「わんが人工呼吸しなかったら、やー、大変な事になってたろうな。」

「本当に、ありが・・・え?」


今。さらっと凛、何て言った??



「そりゃ先に入ってろとは言ったけどよー、まさか溺れてるなんて思わんさー。」

「り、凛。」

「ん?」

「今、何て言った?」

「だから、人工、呼吸・・・・・・。」



次第に小さくなったその言葉に、お互い顔を見合わせる。そして途端に凛の顔が赤くなった。わぁ、珍しい。そんな顔初めて見た。まぁ私も多分人の事を言ってられない。だって燃えそうなぐらい顔が熱いから。



「あぁぁ、か、かき氷!!!蝶子奢るって約束したよな!」

「う、うん。」

「なら、かき氷先にするさー。何か急に暑くなった。」

「う、うん・・・。」



凛はそう言うと私の手を掴んで引っ張り上げた。そしてその手を握って歩きだした。
濡れた凛の髪がキラキラと輝く。綺麗だな。男性が間違えて声もかけるはずた。



「・・・言っとくけどよ。」



凛の髪に見とれていると、小さくでもはっきりと凛の声がした。



「人工呼吸、好きでもない奴にやるほどわんはお人好しじゃないからな。」



握る手に力がこめられたので私も同じように凛の手を握り返した。同じぶんだけ私の想いも届きますように。
振り返れば青い海とキラキラと輝く白い砂浜。私はそれを横目に凛と歩いていく。
そっと目を閉じればそんな青と白のコントラストが、まぶたの裏に焼きついた。

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