「ねぇ。」



私の持ってきた映画のパンフレットを見ながら私の隣に座る幸村が呟いた。
映画はおとぎ話をモチーフにしたファンタジーの映画で、賞を取ったとかで話題になっていたやつだ。



「何?」

「君がかっこいいって言ってた王子様ってどれ?」

「これ。」

「ふーん。」

「聞いておいて酷くない?」

「俺の方がかっこいいよね。」

「幸村のそういう所、嫌い。」

「酷いなぁ。」



そう言いながら笑ってる奴が何を言うか。ページをペラペラ捲りながら微笑む幸村はそんな事微塵も思ってないだろう。



「やっぱり女の子って、いつか理想の王子様が迎にきてくれる、って信じてるものなの?」

「人によるんじゃない?」

「君は?」

「私?」

「そう、君はどうなの?王子様が現れるの待ってる?」



パンフレットを閉じてそう言う幸村の顔からは笑顔は消えていた。じっと真剣に私を見つめている。
私はため息を一つ着くとそんな幸村の顔を両手で挟む。パチンといい音がした。



「・・・・・・地味に痛い。」

「待ってもいいけど、魔王の所まで来てくれる王子様いるかなぁ?」

「もしかして、魔王って俺の事言ってる?」

「だって幸村テニスではラスボスみたいなもんだったんでしょ?」

「ラスボスって・・・。」

「強い学校の部長、つまり魔王。全国でそんな魔王に挑んだのが青学、ってもうRPGみたい。そうなると、青学の越前くんが勇者で王子様・・・って事か。」

「・・・今なら負けないよ。もう。」



幸村の眉間にみるみるシワがよる。怒ってる怒ってる。切原君は幸村をいつも笑ってて何考えてるか分かんねぇって言ってるけど、私はそう思わない。今みたいに露骨に嫌な顔もするし、意外と喜怒哀楽結構はっきりしてると思う。
私はそんな幸村の眉間にキスすると、幸村の首に腕を巻き付けた。



「まぁ冗談だけど、魔王の花嫁ってのも悪くないって本気で思ってるよ?」

「・・・それって逆プロポーズ?」

「まさか、魔王様は王子様よりそれはそれは素敵なプロポーズしてくれるって信じてるもん。」

「・・・俺君のそういう所、嫌い。」



幸村は少し赤い顔でそう呟くと、私にキスをした。そのキスは王子様とするように甘かった。


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