帰り道、欲しかった雑誌を買うためにコンビニに寄った。雑誌とついでに肉まんを買い出ようとする私に、見知った背中が見えた。



「あ。」

「やぁ。」



私の視線に気づいたのか、その背中が振り返った。幸村君だ。
そんな幸村君の手にはコロッケ。



「コロッケ!?」

「ここじゃなんだから、近くの公園でも行かないかい?」



私はその提案にただ頷くと、幸村君は綺麗に笑った。
私達はコンビニを出て近くの公園に向かった。暗くなり始めた公園は人もまばらで、静かだ。ベンチを見つけると私達はそこに座る。



「何を買ったんだい?」

「え、あぁ、雑誌と肉まん・・・。幸村君は・・・。」

「あぁ、俺はコロッケ。」



何時ものように笑う幸村君の手にはやっぱりコロッケ。幸村君もコンビニ行ったりするんだ。そしてコンビニでコロッケ買ったりするんだ。



「ふふふ、俺がコロッケ買ったのがそんなにおかしいかい?」

「え、あ、いや、そんな事は、ないけど・・・ごめん。」

「気にしてないよ。」



幸村君はそう言うとコロッケにかじりついた。私も肉まんを取り出してかじりつく。かじかむ手には肉まんの暖かさが滲む。



「うん、美味い。」



隣でコンビニのコロッケを美味しそうに食べる幸村君はとてもレアだ。
彼はあのテニス部の部長さんで、物腰も柔らかくて、王子様みたいな人だった。隣のクラスだからあまり話した事はないけれど。



「あ、でも俺がコンビニコロッケ食べてたっていうのは内緒だよ?特に真田にはね。」

「真田君?」

「『病み上がりなのだから、そういうものは控えんか!』って言われそうじゃない?」



病み上がり。幸村君は病気で学校をしばらく休んでいた。どんな病気だったのかは私には分からないけれど、でも幸村君は病気に勝ち戻ってきた。そして全国大会決勝戦、幸村君は試合に返り咲いたらしい。らしいというのは私はそれを学校新聞で知ったから。そして試合に負けた事も。



「でも入院中はこういうの食べたくても食べれなかったから。」

「そっか・・・。」

「それに俺、退院したらやりたいことをやろうって決めてたんだ。」

「やりたいことをやろう?」

「うん、入院する前までは周りの事とかいろいろ気にしてやらない事が多かったから。」



幸村君はそう言って私の方を見た。目が合って思わず視線を反らす。
不自然にならないように会話を探す。



「じゃあコンビニでコロッケを買うのが、やりたかった事?」

「うーん、その中の一つではあったかな。」

「他にもあるの?」

「うん。例えば・・・テニスを思いっきりやりたいとか、いろんな所に遊びに行きたいとか・・・ふふ、君の食べてる肉まんがちょっと欲しいなぁー、とかね。」



幸村君はそう言って私に手を差し出してきた。私はその言葉にぽかんとして幸村君を見つめてしまった。
私は肉まんを半分にすると、幸村君のその手に肉まんを置いた。しかし今度は幸村君がぽかんと私を見ていた。



「・・・どうぞ。」

「冗談のつもりだったんだけど・・・うん、ありがとう。」



幸村君は肉まんを受け取ると、コロッケを半分にした。そして半分を私に差し出した。


「はい。」

「いや、私は・・・。」

「半分こ、ね?」

「うん・・・。」



そう言って恥ずかしそうに笑う幸村君に、こっちまで恥ずかしくなってしまった。
私はコロッケを受け取るとかじってみた。香ばしい匂いがぬける。



「ん、この肉まんも美味しいね。」

「コロッケも美味しいよ。」

「・・・ふふ、よかった。」

「何が?」

「藤咲さんと一緒に帰るっていうのもやりたかった事だったから。」



そう言った幸村君は肉まんを頬張った。
私は幸村君のそんな言葉にただうつむいてコロッケを頬張る事しかできなかった。



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