「好きたい、付き合ってくれんね?」

「じゃあ3週間、部活朝練も含めて無遅刻無欠席だったらええよ。」



驚いたように目を丸くさせた千歳君にそう言ってから、早くも2週間がたった。



「藤咲先輩、千歳先輩の事嫌いなんすか?」



ラケットを手にした財前が洗濯物を畳む私にそう言った。



「・・・何で?」

「何となく。でも実際千歳先輩から話しかけはしてはりますけど、あんたから話しかけはしないやないですか。」

「・・・。」

「ま、俺らも似たようなもんやろうけど。」



財前はそう言うと部室から出て行った。タオルを畳む手を止めてそれを握り締める。
全国大会。四天は準決勝敗退。3年間同じクラスだった謙也は試合には出なかった。出る予定だった。でも出なかった。
一度部活を辞めた千歳君に譲ったのだ。
それを知ったのは大会が終わってからだった。謙也自身の口から聞いた。謙也は笑ってた。
その時白石は黙ってそれを見つめ、財前君は「しゃーないっすわ」と納得し、千歳君は黙って試合に出たという。
それ以来みんなが嫌いになった。特に千歳君。デカくて気分屋でいつもへらへら笑ってるくせに、テニスは馬鹿みたいに強い。だから謙也も譲ったんだ。なのに。



「蝶子ちゃん。」



名前を呼ばれて我に返れば、いつの間にかやってきた千歳君が私の隣に座っていた。
椅子をちょっと離すと、止めていた手をまた動かし始める。



「蝶子ちゃん、何かんがえとったと?」

「・・・別になにも。」

「当てちゃるばい。」



話をきかない千歳君はそう言って私の顔をのぞき込んだ。左耳のピアスが、キラリと光る。
にやりと笑った彼に、思わず顔をそむける。



「謙也の事・・・どうね?」

「・・・下らない事してないで、早う部活行き。」

「話をそらすち事は、当たりっちゃね。」

「違、」

「違わないばい。」



千歳君はそう言うと私の手を掴んで自分の方に引き寄せた。とっさに振り払おうとしたが、相手は男。適うはずもなかった。
千歳君はたのしそうに笑うと、顔を近づける。



「謙也は体調悪か幼馴染みと一緒に帰ったばい。」

「し、知っとるよ。」

「本当に?謙也がお前さんじゃなく、その幼馴染み好いとう事も?」



私は謙也が好きだ。じゃなきゃ今でもテニス部のマネージャーみたいな事やってない。謙也の為に私はここにいるんだ。
でも謙也は幼馴染みの子が好き。私じゃない。そんなの言われなくたって知ってる。知ってるんよ。
知ってるのに涙が出てくる。その涙を千歳君が舐める。



「遠くの謙也より近くの俺たい。俺にせんね?」

「・・・嫌い。」

「ん?」

「大嫌い。」

「俺は好いとうよ。」



千歳君はそう言いながら私にキスする。
2週間確かに千歳君は部活を無遅刻無欠席している。私のために、やって。
私は突き飛ばしてそんな彼の頬を叩いた。



「千歳君なんて、大嫌い。」



大嫌いだ、千歳君なんて。
そう言った私に、頬をさすりなが彼はただ微笑んでいるだけだった。



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