「寒くなったね。」
「せやなぁ。」
秋から冬へと少しづつ変わるのを日が早く沈むので感じるようになった今日この頃。
藤咲さんと一緒に帰るのは久しぶりやった。赤らんでく空に薄く白い息が揺れる。
「引退したのに部活あって大変だね。」
「まぁでも、引き継ぎとかだけやからな。」
「でも打ち合いもしてたでしょ?」
「見てたん?」
「うん。」
そう言って笑う藤咲さん。夕日を背に笑う彼女に思わず見惚れる。
「・・・あのね、白石君。」
「何?」
「白石君に伝えたい事があるの。」
その言葉に胸が痛む。先の分かっている話なのに聞きたくない。
「私ね、謙也君と付き合う事になったの。」
「・・・へぇ、そうなんや。」
そんなんとっくに知っとる。だって謙也に藤咲に告白したら言うたの俺やから。
謙也はクラス一緒になってから仲良くうなって藤咲さんの事好きになった時からアドバイスしてた。藤咲さんも謙也を見に部活来とったのも知っとった。
彼女の笑顔がまともに見れずに赤らむ空を見上げる。
「まだ誰にも言ってないんだけど、白石君には言っておこうと思って。」
「さよか、そりゃおおきに。」
「あはは、なんか恥ずかしいね。」
そう言って顔を赤くさせる藤咲さん。その顔は幸せそのもので。
「白石君は?」
「何が?」
「そういう子いないの?」
のぞき込むように見つめられ、そしてその言葉に俺は笑顔を作る。
「・・・おったよ。」
「え、過去形なの?」
「おん。失恋したねん、俺。」
目を丸くさせた彼女の横をすり抜けるように歩幅を大きくした。
「まぁ片想いやったんやけどな。」
「そう、なんだ。」
「めっちゃ好きだった子に彼氏が出来てん。」
「・・・なんか、変な事聞いてごめんね。」
「えぇよ、別に。」
むしろ謝るはこっちやねん。ごめん。
今でも藤咲さんが好きで、ごめん。
謙也が好きになる前から、好きやったんやで。絶対に言わへんけど、もう言う事も出来へんけど。
小さく吐いた息が、赤らむ空に消える。
「でも、すぐにまた白石君にも素敵な人が見つかるよ。」
「自分みたいな?」
「私?私なんかよりもっと素敵な人だよ。お世辞が上手いね、白石君は。」
「あはは。」
上手く笑えなくて、また空を見上げた。小さく見え始めた星をぼんやり眺めながら今年初めて巻いたマフラーに顔を埋めた。
「・・・寒いなぁ。」
呟いた言葉は俺の恋心と一緒に空に滲んで消えた。