私の彼氏は面倒くさい。
普段は小春ちゃんを追っかけながら鋭い視線と言葉を周りに向けているくせに、私といるときはそれが全くない。むしろ「こいつ偽者なんじゃね?」ってぐらいに大人しい。
今だって特に何をするでもなく私に抱きついている。私の肩に顔を押し付けてくるため表情は見えない。
「ユウくーん。」
「・・・・。」
「ユウジさーん。」
「・・・・。」
「一氏ー。」
「・・・・。」
うんともすんとも言いやしない。私はとりあえずユウ君の背中をポンポン叩いてみた。
「どうしたの?小春ちゃんにフられた?」
「・・・・フられへん。むしろラブラブや。というか、俺むしろ怒ってんねんぞ。」
やっと喋ったと思ったらユウ君はそう言って私を強く抱きしめた。ちょっと苦しい。
「え、何で?」
「はぁ?」
「いや、こっちがはぁ?なんだけど・・・。」
私がそう言うとユウ君はようやく顔を上げた。ユウ君は目つきが悪いから端から見ると怖い人だと思われがちだが、実際はそんな事はない。白石とか謙也に隠れてはいるが、彼も意外とイケメンだ。
そんな彼の顔を至近距離で眺めると、なぜか涙目の視線とぶつかる。
「ユウ君何で泣いてんの?」
「泣いてへんわ。」
「涙目だよ。」
ユウ君はそう言うと私の首筋に顔をうずめた。バンダナの下からはねるユウ君の髪が顔に当たってくすぐったい。
「ユウ君、苦しいしくすぐったいんだけど。」
「・・・・。」
まただんまり。今日のユウ君はよく分からない。まぁいつも分からないと言えば分からないんだけど。
と、思ったらユウ君はいきなり私にキスをしてきた。驚いて目を閉じるのを忘れていた私にユウ君はお構いなしに何度かキスする。ようやく唇が離れたかと思うと、何を思ったかユウ君は私の首筋に噛みついた。そりゃもうガブっと。痛いとか言う前に抱きついていたユウ君がガバッと体を離した。そして私にデコピンを一つ。
「あ、痛っ。」
「・・・・・アホ!」
ユウ君はそれを捨て台詞のように私に投げかけると、足早に去って行ってしまった。
残った首筋の痛みとおでこの痛み。とりあえず2箇所をさする。何なんだよ、もう。
「どないしたん?」
しばらくしてやってきた小春ちゃん。私の姿を見てメガネを上げる。
「よく分からないんだけど・・・・犬に噛まれた、みたいな?」
「あらあら、ユウ君も男の子やからなぁ。」
「え?」
詳しく話さなくても小春ちゃんにはお見通しみたいだった。小春ちゃんは人差し指を唇に近づける。
「自分がこの前隣のクラスの男子と買い物しとったって話ユウ君にしたんよ。多分それでや。」
「え、あいつの彼女が私の友達だから相談にのってあげてただけだよ?もしかして、それに嫉妬したって事?」
「ユウ君照れ屋さんやからなぁ。」
そう言って笑った小春ちゃんを見ながら、噛まれた首筋をまたさする。嫉妬するならもっと分かりやすいして欲しいものだ、本当に面倒くさい奴。
その時持っていたスマホが振動した。見ればユウ君からのメール。
『噛んですまん』
素っ気なさすぎる謝罪メールに私は思わず力が抜けてしまった。なんて面倒くさくて愛しい彼氏。
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