(曖昧ラプソディと繋がっていないようで繋がっているような佐伯)部室に向かう途中、水道の所で佇むダビデを発見した。私はこっそりその背中に近づき、やや曲がった背中を叩く。
「いたっ。」
「背中曲がってるよ、ダビデ。」
私がそう言うとダビデがゆっくり振り向いた。その顔はなんとも冴えない、しかも顔を洗ったのか濡れている。
「うわっ、ダビデタオルは?」
「・・・・・部室に置いてきた。」
「・・・・・・はぁ。ほら。」
私は鞄の中からスポーツタオルを取り出すとダビデに渡す。ダビデは無言で受け取るとそのタオルで顔を拭く。
「ありがとう、後で洗濯の所に置いておく。」
「洗って返すとは言わないのか。」
「俺が洗うよりサト君が洗った方がふわふわになる。」
「そーですかい。」
私よりもサトですか。まぁ、確かにサトの方が洗濯上手いけど・・・・・・・。
タオルを肩に掛けたダビデは蛇口を閉めるとため息をつく。
「もしかして、まだ悩んでたりしてる?」
「・・・・・・どうしたものか、分からない。」
「プレーはアグレッシブなのにねー。」
「・・・・・。」
「何?」
「・・・・サエさんにも同じ事言われた。」
ダビデはそう言いながら笑った。
サエと同じ事?
「サエさんとは上手くいってる?」
「だから、サエとはそんなんじゃないって前も言ったでしょ?」
「ああ雲よ、月の女神よ。今だけは邪魔をしないでくれ。」
その時、その場にそんな声が響いた。声がした方を見れば胸に左手を当てたサエ。その前には女の子が一人。そのセリフには聞き覚えがあった。あれは確か・・・・お花見の時のロミオとジュリエットのものだ。
「瀬名。」
ダビデも振り返るなり名前を呟く。
ん、瀬名って・・・・・もしかしてあの子が噂のダビデの彼女ちゃん?
「会いたかったよジュリエット。さあ月の下で、お別れをしよう。すぐに君のもとに行く。」
サエは彼女ちゃんを見つめてそうセリフを続けると、あろうことか彼女の髪の毛にキスをした。
驚く私をよそにダビデが大股でその二人に近づく。
私も急いでそんなダビデの背中を追うと、ダビデは顔を真っ赤にした彼女ちゃんの腕を引っ張って自分の方に引き寄せる。
「サエさん!」
「やぁ、ダビデ。」
「サエさん、何してたの?」
「彼女にロミオのセリフを披露してたんだ。」
珍しく眉間に皺を寄せるダビデにサエはさらっと笑顔でそう言う。私はため息を一つ付くとサエの腕を掴む。
「サエ、ちょっと。」
サエは私の名前を呼ぶと面白そうに微笑んだ。
私はそんなサエを睨みつけるとダビデとまだそんなダビデの腕の中にいる彼女ちゃんを見る。
「ごめんね二人とも。サエには私からちゃんと言っておくから。」
ダビデは黙って頷いた。彼女ちゃんは大きな目を数回瞬きさせた。
私はそのままサエを連れて歩き出す。
「もう何やってんのサエは。」
「彼女が君とダビデが楽しそうに話してるのを見ててね。」
「え?」
「ヤキモチ焼いてたみたいだから、ダビデにも同じようにヤキモチ焼かせようかと思ってね。」
笑顔で何を言ってるんだこいつは。私はまたため息をつくと、なんだかダビデの彼女ちゃんに申し訳なくなった。
ごめんね、ダビデの彼女ちゃん。いろいろと。
そうちょっと反省した私に、サエが腕を掴んでいた私の手を剥がしてその手を握った。
「ねぇ。」
「何?」
「嫉妬した?」
「え?」
「ヤキモチ焼いたか、って事。」
「・・・・・。」
そう言ってサエはお花見の時のロミオのように目を細めた。
私は柄にもなくそんなサエに見とれてしまった。
「何も言わないって事は、肯定って事でいいかい?」
「ちっ、違います!まったくサエは・・・・・。」
「だから、本気だって。」
「もう・・・・・・・あんまり、からかっちゃダメだよ。」
「ダビデの事?それとも君の事?」
「どっちも!!」
「あはは、分かったよ。」
そう声を上げて笑うサエは全く説得力がない。私はそんな姿にまたため息を付くと、力なく笑った。
12.1.18
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