「お疲れ様、白石。はい、ドリンク。」
「おおきに。」
試合を終えてベンチに戻ってきた白石に用意してあったドリンクを渡した。白石はそれを受け取るとベンチに座る私の隣に座った。首から下げたタオルで汗を拭いながらドリンクに口を付ける。
「流石部長、金ちゃん相手でも勝ちましたね。」
「まぁな。でも見てみぃ、金ちゃん。試合後やのにめっちゃ元気や。」
「本当だ。」
白石とついさっきまで試合していた金ちゃんだが、いつの間にか師範の所でぴょんぴょん跳ねてその背中に飛び乗っていた。
「ほんま金ちゃんには適わんわ。」
「いつも元気だよね。」
「でも、はしゃぎすぎで怪我でもしないか心配やわ。」
「まぁ大丈夫じゃない?面倒見のいい謙也もいるし、千歳も金ちゃんには甘々だし。」
その謙也と千歳は一つ向こうのコートで試合中。
白石はそう言った私を見てニヤリと微笑むとドリンクを足元に置いた。
「千歳は蝶子にだって甘々やん。」
その言葉に私は持っていたバインダーを白石目掛けて振り下ろしたが、なんなくかわされる。
「ほんまやの事やろ。」
「・・・なんか白石に言われるとムカつく。」
「でもな、あのサボリ癖と遅刻癖はどうにかせなあかんで。自分からも言ったって、」
「蝶子。」
名前を呼ばれて顔を上げれば、そこには千歳の姿が。
「お疲れ様」を言う前に千歳は私と白石の足元に座りこむと、そのまま私の膝に腕と頭をもたれたけてきた。
「あー、疲れたばい。」
「え、えぇ!?」
「なんや千歳、謙也との試合終わったんか?」
「そうたい。」
「いや、何で私の膝に寄りかかってんの?!」
普段見上げている千歳を今は見下ろしていた。千歳はそう言った私を上目づかいで見ると、何を思ったかタオルを私の膝にのせてまたその上に頭をのせた。
「これで髪の毛チクチクしないとよ。」
「いや、そう言う事じゃない!何でベンチ座らないの?こっち空いてるでしょ?」
そう言いながら空いている隣をバンバン叩くと、千歳はチラっと白石の方を見た。それを見て白石が吹き出す。
「ちょっ、笑い事じゃないからね白石。」
「すまんすまん・・・・でもまぁ、男の嫉妬は醜いで、千歳。」
「・・・・・・。」
そう言った白石に千歳は何も言わずに私を見上げた。
「・・・・この方が白石より蝶子との距離が近いばい。」
小さくそう言って顔を背けた千歳に、白石が今度は声をあげて笑った。
「え、それって、」
「おいこら、千歳ぇぇ!!!」
私の言葉を遮るようにそう言いながら謙也がやってきた。白石はそんな謙也を見て立ち上がる。
「どないしたん、謙也。」
「どうしたもこうしたもないっちゅーねん!!いきなり消えよって!まだ試合は終わってへんで!!」
「あー、棄権すったい。蝶子の膝が気もちよかすぎて無理ばい。」
「え、私のせい!?」
「まあまあ謙也、変わりに俺が相手したるから。」
白石は千歳の肩をポンと叩くと、そのまま謙也と一緒にコートに向かって歩いていってしまった。
ベンチに私一人と足元も千歳が一人。つまり二人だけになってしまった。
「・・・千歳、隣空いたよ。」
「俺はここでよかよ。」
「・・・もう。」
私はため息をついでバインダーを隣に置いた。そしてゆっくり千歳の頭に手をのせる。毎回思うがふわっふわだな、千歳の髪。
「ちゃんと部活やらないと白石に怒られるよ。」
「それは困った・・・ばってん白石達の試合が終わるまでは大丈夫たい。」
千歳はそう言ってまた上目づかいで私を見つめた。
その姿にときめく私も相当千歳に甘々なのだ。