「お兄ちゃん、誕生日おめでとう。」
朝、妹に出がけにそう言われて今日が誕生日だと言う事に気づいた。
と言っても誕生日が来たから特に何が変わる事もなく、いつものように学校に向かった。
「幸村、誕生日おめでとう。」
「部長、誕生日おめでとうございますっ!」
放課後、部室に来るとそれぞれから祝いの言葉とプレゼントを貰った。去年の誕生日とはずいぶん違うなと思った。
「幸村君。」
俺を現実に呼び戻したのは背中の痛みだった。振り返れば同じクラスの藤咲さん。彼女が俺の背中を叩いたらしい。
実は俺は彼女が気になっていて、同じ小学校出身の柳生にいろいろ聞いた事もあった。
「結構呼んでたのに、気づかなかった?」
「あぁ、ごめん。」
「気にしてないよ。部活帰り?」
「うん。」
そう言う彼女も部活帰りだろう。彼女は園芸部で、彼女が育ている花壇を見るのが日課になっていたりもしていた。
「あ、そうだ柳生君から聞いたよ。お誕生日おめでとう。」
「・・・・ありがとう。」
まさか彼女が俺の誕生日を知っているとは思わなかった。驚く俺をよそに藤咲さんは笑顔だ。
「そんな幸村君に誕生日プレゼント、はい。」
「・・・・。」
そう言って彼女が取り出したのは花束だった。しかも彼女が育てたあの花たちだ。一目で分かる。だっていつも見ている花たちだから。
「こんなプレゼントでごめんね。」
「そんな事ないよ。」
「ゆ、幸村君大丈夫!?」
「え?」
「だって泣いてるから。」
彼女に言われて初めて気づいた。俺は泣いていた。悲しいのではなくて、嬉しいのだ。
去年の誕生日は病室で看護士さんに貰った小さなケーキを食べた。その時も花はあったけど、これとは比べものにならない。
ぽろぽろ涙をこぼしながら、俺は花を抱きしめた。彼女のみどりのゆびが、俺を包んでいるみたいだ。
「藤咲さん、ありがとう。」
小さくそう言うと、彼女は照れたように笑った。その笑顔も彼女の育ててる花のようだと思った。
←