(曖昧ラプソディと繋がっていないようで繋がっているような佐伯)期末テストもいよいよ明日に迫ったある日。
理科室から戻る途中、反対からやってきた子とぶつかってしまった。
私は後ろに倒れ、お互い持っていたものが足元に散らばる。
「ごめんなさい、大丈夫?」
「すみません、大丈夫・・・・。」
ぶつかったのは一年生の男子。急いで自分の教科書らを拾って一年生君持っていたのノートを拾う。瀬名 雪。一年生君の持っていたノートに書いてある名前に動きが止まる。あれ、この名前は・・・・・。
「あの、もしかして男テニのマネージャーさんですか?」
「え、あっ、はい、そうですけど。」
「やっぱり。姉ちゃ、あーいや、姉がいつもお世話になってるみたいで。」
「もしかして、ダビデの彼女ちゃんの弟君!?」
「はい。」
そう言って軽く頭を下げた一年生君・彼女ちゃんの弟君。話には聞いていたが、会えるとは思っていなかった。
「ダビデ先輩の次に多く話に出てくるんで、どんな人かなーと思ってたんです。」
「そうなんだ。」
「あっ、今更ですけど大丈夫ですか?」
「あ、うん。」
弟君はそう言うと彼女ちゃんの名前の書かれたノートを受け取った。でも何で弟君がお姉さんのノートを持ってるんだ?
「ダビデとは顔見知りなんだ。」
「一応。さっきも会いました。」
「さっきも?」
「昨日姉に借りたノート返しておいて欲しいって渡されて。」
「何で弟君に?自分で渡せばいいのに。」
「俺も言ったんですけど、確実に今日中に渡したいからって言われて。」
弟君に頼むダビデの姿が目に浮かぶ。ダビデの事だから弟君の姿を見つけたから声をかけてみたって所だろうな、きっと。
「でもずっと持ってると忘れそうなので、返しに行こうかと。」
「なるほど。ごめんね、うちの部員が。」
「大丈夫?」
「サエ。」
弟君の向こうからサエがやってきた。早足で弟君の前にやってくると私の手を取ってぐいっと引っ張る。立ち上がると、弟君が目を丸くさせてやってきたサエを見つめる。
「君が彼とぶつかるのが見えたから、大丈夫?」
「うん。」
「君も大丈夫?」
「ろ、」
「ろ?」
「ロミオ先輩!!」
弟君はサエを見つめながらそう言うと、スマホを取り出した。そしてぽかんとしているサエに向けてピロリーンと写真を撮る。
そんな光景に笑いをこらえるのが必死。思わず口に手をあてる。
「はっ、すみません!」
「な、何でロミオ先輩?」
「いや、あの、部活の先輩から去年のお花見の時の写真見せてもらってて、それで・・・すみません。」
そう言って頭をかく弟君は彼女ちゃんに似ていた。やっぱり兄弟なんだな。
弟君はスマホをポケットに戻すと、相変わらずぽかんとしているサエに視線を向ける。
「あの、佐伯先輩?」
「あぁ、ごめん。君もしかして瀬名さんの弟君?」
「あ、はい。」
「そっか、やっぱり。似てるね。」
「そう、ですか?」
ようやく戻ったサエは弟君にいつもの笑顔を向けた。私が口元から手を離すと、弟君は私とサエに頭を下げた。
「じゃあ俺行きますんで。姉探さないと。」
「あっ、待った。」
そう言って弟君が背中を向けると、サエが弟君の肩に手を乗せた。そして小さく何かを話す。内容は聞こえない。
「はぁ、いいですけど。」
「うん、じゃあよろしく。」
「できたら姉に渡します。」
「うん、待ってる。」
サエがそう言って手を振ると、弟君は今度こそ頭を下げて去っていった。
「ところでサエ。」
「ん、何?」
「いつまで私の手握ってるの?」
手を取られたままずっとそのままだったという事に気づいた。サエは私の方に笑顔を向ける。しかし一向に手を離す気配はない。
「いつまでも、なんてどう?」
「却下。」
「えー。」
「えー、じゃない。」
私はサエの手から逃れると、教科書をわきに抱える。
「で、弟君に何頼んだの?」
「ん?秘密。」
「えー。」
「貰ったら君にもあげるよ。」
サエはそう言うと貸していた数学の教科書を私に差し出した。
貰ったら、という事は物なのか?
「今日これから何か予定ある?」
「ないけど。」
「じゃあ英語教えてくれないか?」
「サエ別に英語苦手じゃないでしょ。」
「そうだけど、不安なんだ。」
「・・・仕方がないなぁ。」
「ありがとう。」
「部室でいい?」
「あぁ。」
嬉しそうに笑うサエ。私より成績いいのに、どうして私に教わるんだ?帰ってきた教科書と上機嫌なサエを見つめながらそう思った。
「姉ちゃん、今日ダビデ先輩に会いに男テニ行くだろ?」
「え、あ、うん。」
「ならこれ、佐伯先輩に渡しておいて。」
「え、佐伯先輩に?」
「そう。」
「何これ?」
「写真。」
「写真?」
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