グーを出した事に激しく後悔している。
俺はじゃんけんというものが嫌いだ。何かを決めるにしても大抵じゃんけんで決まるし、絶対に最後まで残る。そして負ける。部活内では勝った試しがない。
「ねぇ。」
部活内で俺が勝てないのは柳先輩が1枚絡んでいると思う。その俺のデータの中には『じゃんけんで勝つ方法』がすみっこの方に書いてあるに違いない。絶対にあるだろう。
「ちょっと。」
そもそも、じゃんけん開発した奴誰だよ。何で何でもかんでもじゃんけんで決めるんだよ。多数決とか、あみだくじとか、公平に決めた方が平穏に何事も決まるじゃんかよ。世界平和も夢じゃねーってーの。
「切原、聞いてる!?」
「・・・聞いてる。」
俺の前のソファー席に座る瀬名が持っていたドリンクの入った紙コップを机に叩きつけながらそう言った。
俺は普通のイスに座っていて、どっちに座るかもじゃんけんで決めた。(俺が負けてこっちになった。)
「じゃんけん必勝法の話だろ?」
「そんな話一言も、一言もしてないからね!!!真田先輩の話!!!」
備品の買い出しじゃんけんで負けて買出しする羽目になった俺。そんな中偶然会ったこいつが付き合ってくれる事になったのに、ファストフード店に寄るやいなやまた、じゃんけん。また負けるし、副部長の話になるし。
あーーー、やりかけのゲームクリアする気満々だったのに・・・・・・。
「で、真田先輩がおもむろにしゃがみこんでさ。」
「へー。」
「『一応、保健室に行ったほうがいいだろう。付き添おう。』って言ってくれてさ!」
「ふーん。」
「その顔が、すっごくかっこよかったんだよ!!今思い出してもかっこいい!!!」
「ほー。」
「ちょっと!切原から言ったんでしょ?『お前から見た副部長ってどんな感じなんだ?』って!!」
確かに聞いたけど、そこまで聞いてない!そもそも何でそれが、副部長と初めて会った時の話になるんだよ??
俺は純粋に、気になる奴の好きな奴のどんな所が好きなのか知りたかっただけだよ!!
俺は心の中でそう叫ぶと、ストローで自分のドリンクを飲みほした。氷だけになったずずずって音が響く。
大体、好きな奴の好きな奴の話聞いて、普通にしてる奴がいるのかよ?いるなら見てみたいね。
「いつになく不機嫌だね、切原。」
(誰のせいだと思ってんだよ・・・。)
「そんなにじゃんけんで負けたのが悔しいの?」
「別に、悔しくねぇし。」
「そうかそうか、そんなに悔しいか。」
「・・・むしろ話聞いてねぇーのはお前の方だろ。」
「何か言った?」
「・・・別に。」
そう言って俺も机にドリンクの紙コップを置いた。
瀬名はさっきまで釣り上げていた眉を下げると、机にほおづえをついて俺をニヤリと見つめた。
「切原って、じゃんけんの時必ずグー出すよね。」
「そんな事ねぇよ。」
「そう?」
「そうだよ。」
「ふーん。じゃんけん、ぽん。」
咄嗟に瀬名がそう言った言葉に反射的に手を出してしまった。
見れば瀬名はパーを。俺はグーを出していた。また負けた。しかもグーで。俺はその手を握りしめる。
「ほら。」
「い、今のは急にやったからだよ!」
「じゃあもう1回やる?」
「おう!」
「最初はグー・・・。」
よし、最初がグーだから、今度は・・・。
「じゃんけん、ぽん。」
今度こそと俺が出したのは、パー。
しかし瀬名が出していたのは、チョキだった。
「はい、私の勝ちー。」
「・・・。」
「ふふふ、切原は分かりやすいからじゃんけんやりやすいなぁ。」
「悪かったな、分かりやすくて・・・。」
呟くようにそう言うと、瀬名が声を出して笑いだした。
人が気にしてるのにけらけらと笑いやがって・・・・・・。俺は奪うようにまた紙コップを取るともはや氷しかない中身をすすった。
本当に何でこんな奴の事好きなんだろう?
「切原はじゃんけんの必勝法が分かってないね。」
「必勝法?」
「そう、必勝法。人は無意識に警戒してグーをだす人が多いから、パーを出せば大体勝てる、とか。」
「へー。」
「最初はグーの時、同じのを2回出してくる人あんまりいないから、チョキを出せば勝ちやすくなる・・・とかね。」
「マジか。」
完全にさっきの俺と一緒だった。確かに俺はじゃんけんする時グーを最初に出していた気がする。
瀬名は考える俺を見てやっぱりニヤニヤしながらまた手を出したの。
「それを踏まえて、やってみる?」
「上等!よーし。」
「じゃあ負けた方が次のカラオケ代奢りね。」
「はぁ?」
「じゃんけん、ぽん。」
チョキを出した俺に対して、瀬名はグーを出していた。
また、負けた・・・。
そんな自分の手を見つめていると、今度は瀬名が俺の前に人差し指を向けてきた。
まさか・・・。
「あっち向いて、ほい。」
右を差し出した瀬名の指先につられて俺も右に向いてしまった。その、まさかだった。
じゃんけんにも負けた挙句、あっち向いてほいにもひっかかるとか・・・自分の単純さ加減が本当に嫌になった。
そんな自己嫌悪にある俺を見て瀬名はまた声を上げて笑う。しかも今度はお腹を抱えて。
「あははは、切原、可愛い!!あははは!!」
「う、うるせぇよ!!」
「そ、それにあれだけじゃんけんの話したのに、チョキって・・・あははは!」
「いいだろ!最初グーじゃなかったんだから!?」
「チョキ最初に出すのは、ひねくれものが多いからね。」
「なっ!」
「あははは!」
瀬名はいつの間にか涙目で笑いを堪えていた。泣きたいのはこっちだっつーの!!!
俺はまたダンっと紙コップを机の上に置くと立ち上がった。
「笑ってないで、さっさと行くぞ。」
「へ?買い物終わったでしょ?」
「カラオケ、行くんだろ?」
瀬名はその言葉に目を丸くさせたが、しばらくしてまたニヤニヤしながら立ち上がった。
そしてドリンクの紙コップをゴミ箱に放り込むと、足早にファストフード店を後にする。
「仕方が無いなぁ。さっきのあっち向いてほいが可愛かったから、3分の一出してあげよう。」
「割り勘じゃねーのかよ。」
「じゃんけんで私に勝てないからって、泣かない泣かない。」
「泣いてねぇ!」
あーあ、本当に俺何でこいつの事好きなんだろう?
情けない事ばっかりだし、じゃんけんどころか、瀬名の必勝法すら分からずじまいだし。
雲一つない空に、視界が歪んだ。
2016.05.01. 企画提出
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