「切原、宿題終わった?」



買ったばかりのアイス片手に瀬名がそう言った。折角遊園地に2人で来ているというのにムードのない話だ。

姉貴から遊園地の招待券を貰った。一枚で二名まで入れるやつ。クラスの連中で行くには足りないので、思い切って瀬名を誘ってみた。あっさりOKをもらい、集合場所と待ち合わせ場所を伝えた。次の日の部活で『遊園地デートですか』とまさかの柳生先輩に言われてボールにつまずいて転けた。
よーく考えたらこれってデートじゃんか。そう気づいてクリアしかけていたゲームがゲームオーバーになった。



「お、お前はどうなんだよ。」

「うーん半分ぐらい?」

「へー。俺と同じぐらいじゃん。」

「ほー、補習三個やった切原も半分も終わってるんだ。」

「べ、別にいいだろ、そんな話は!!」



園内入ってからそんな話しかしてない。ジェットコースター乗ってゴーカート乗ってアイスを食べて、今に至る感じ。
瀬名はアイスをほおばりながら園内のマップを眺める。
制服以外でこいつがスカート履いてるの初めて見た気がする。こんな格好もするのか・・・。



「切原、次どこ行きたい?おばけ屋敷?」

「お、おばけ屋敷はパス!もっと盛り上がる所行こうぜ。」

「あ、怖いんだ。」

「べ、別に怖いわけじゃ、」

「わぁぁぁぁぁん!」



俺が言い終わらないうちに近くから鳴き声が聞こえてきた。
声がした方を見れば、すぐそこで小さい子供(男の子)が空を見上げて泣いていた。瀬名もそれに気づいたのか、そいつに近づく。



「どうしたの、僕?」

「風船、ぐすっ、が。」

「風船?」



指差す方を見れば木に引っかかった青い風船が。涙目の子供の頭を瀬名が撫でると、持っていたアイスを俺に渡してきた。



「切原、持ってて。」

「は、何で?」



思わずアイスを受け取った俺。そして瀬名が木にしがみつこうとしたので、俺はとっさに瀬名の着ていたパーカーのフードを引っ張る。



「ちょ、ちょっと待てって!」

「ちょっと、何だよ切原。」

「まさかお前、登って取りに行く気か!?」

「大丈夫だって、私こう見えて木登り得意だから。」

「そうじゃねぇだろ!?」

「え、じゃあ何?」

「お前、スカート履いてんだから、その、見えるだろ、下から!!」



俺がしどろもどろになりながらそう言うと瀬名がポカーンとした表情で俺を見つめた。その表情したいのはむしろ俺なんだけど。
そうこうしてたら「あ」と子供が声を上げた。見ればさっきまで引っかかっていた風船が空に高く上がっていく所だった。
子供を見れば今にもまた泣き出しそうに目に涙をいっぱい貯めている。それにぎょっとした俺は近くにいた遊園地の着ぐるみを発見。急いで同じ青い風船を貰ってきた。



「ほらよ、チビ。」

「ありがとう、お兄ちゃん。」

「もう飛ばすなよ。」

「うん!」



子供はそう言うと青い風船をしっかり持って走って行ってしまった。
小さくなる背中を見つめながら、持っていたアイスを瀬名に戻す。



「最初から登らねぇで新しい風船貰ってくればよかったじゃんか。」

「・・・・。」

「瀬名?」

「あ、うん、一応女子として見てるんだね、切原。」



女子として見てなかったら好きになんねぇーっつうの。本当に何でこんな奴好きなんだろう。
ため息ついた俺の口に何か突っ込まれた。瀬名が食ってたアイスのスプーンだ。驚く俺の舌に感じる冷たさと甘さ。



「なにすんだよ!」

「あはははは、切原のくせに生意気!」

「はぁ?」



今度は俺がぽかんとしたが、瀬名は笑いながら俺の口からスプーンを抜いた。そしてアイスをすくって自分の口に運ぶ。かかか間接キスじゃんか、これ!?



「よし、やっぱりおばけ屋敷行こう!おばけ屋敷!」

「し、しゃーねーな。怖がって腰抜かしたら置いてくからな!」

「それはこっちの台詞!」



ぎこちなくそう言った俺の腕に瀬名がしがみついた。恥ずかしいとかはもうどうでもいいや。今はとにかくこいつと2人を楽しまなきゃ損だ。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -