アドレス帳からヒカル君の名前を探す。マネージャーさんから貰ったケーキバイキングの割引券を握りしめながら通話ボタンに手をかけた。せっかくバレンタインも近いことだし、去年は逆チョコを貰ったから今年はこれでいこうと思った。一応チョコも作ったけど・・・・。
手をかけただけで押せていないままだ。しかし息を付いてから意を決してボタンを押すと、呼び出し音が聞こえる。当たり前なんだけどすごく緊張する。そう言えば私からヒカル君に電話をかけるのは初めてかもしれない。5コール目でブチっと音がした。



「も、もしもし。」

『・・・もしもし。』



聞き慣れた低い声ではなく、女性の声。



「す、すみません間違えました!」



とっさにそう言って通話を切る。びっくりした。違う所にかけてしまったみたいだ。今度こそ間違わないようゆっくりとアドレス帳からヒカル君の名前を探す。よし、今度こそ大丈夫。私はまた通話ボタンを押す。



「・・・もしもし。」

『あ、はいはいもしもーし?』



またさっきの女性が出た。ぱっとディスプレイを見るが、ヒカル君の番号だ。混乱して携帯を離したり近づけたりしていると、電話の向こうから笑い声が聞こえてきた。
またそれに耳を近づける。



「あ、あの・・・。」

『あぁ、ごめんごめん。間違い電話じゃないよ、合ってる。間違いなく天根ヒカルの電話だよ。』



笑いをこらえながら女性がそう言った。低めので、大人っぽい雰囲気の声だ。



「あ、あの、ヒカル君は・・・・。」

『今お風呂入ってる。あ、もしかしてヒカルの彼女?』



女性の言葉にどう答えようか迷ってしまった。
それよりも、この女性はいったい・・・・。



「あ、あの・・・。」

『ダジャレ聞かされて大変でしょ?でも、あんな顔してるけど可愛い所もあるから許してあげてね。』

「え、えっと・・・・。」

『あ、もしかして私誰れだと思ってる?』

「・・・はい、あの貴女は・・・。」

『ヒカルの、元カノ。』

「えっ!?」



思わず出てしまった声に慌てて口を押さえる。
そ、そうだよね、ヒカル君かっこいいから元カノの1人や2人・・・・・。


『ねぇねぇ、ヒカルのどこが好き?』

「え、あっ、あの・・・・。」

『ヒカルに聞いても教えてくれないんだ、』



そう言った女性の声が途中で途切れたかと思うと、電話の向こうから雑音が響いた。何が起きたんだろう?



『もしもし。』

「・・・あれ?ヒカル君?」

『どうした、雪。』



女性から変わってようやくこの電話の持ち主が出た。ヒカル君の声に少し安心する。



『悪い、待たせたな。』

「ヒカル君、お風呂入ってたんじゃ・・・。」

『何で知ってるんだ?』

「それは、あの・・・。」

『ん?』

「も、元カノさんが、言って・・・・。」

『・・・・。』



私がそう言うとヒカル君は黙ってしまった。
そしてため息をつく。



『元カノじゃない。姉貴だ。』

「え?」

『姉貴。』

「お、お姉さん?」

『うぃ。』



驚く私の電話の向こうから笑い声が聞こえる。それを聞いてかヒカル君がため息をついたのが分かった。



『・・・何か言われたか?』

「いや、何も!ただ、びっくりしちゃって・・・・。」

『悪かったな、って、おいっ!』

『もしもし、雪ちゃん?』



ヒカル君の声からまたあの女性・お姉さんの声に変わった。その後ろで小さく「おい、姉貴!」とヒカル君の声が聞こえる。



『ごめんね、話に聞くより可愛かったからつい。』

「は、はぁ・・・・。」

『ヒカルに泣かされるような事があったらいつでも言ってね、こてんぱんに懲らしめてやるからさ。』

『姉貴!!』



電話の向こうが慌ただしくなったかと思うと、またお姉さんの笑い声が聞こえた。そしてバタンと音が聞こえると、ヒカル君のため息が聞こえてくる。



『で、何か用があったんだろ?』

「うん、マネージャーさんにケーキバイキングの割引券貰ったんだけど、一緒に、行かない?」

『あぁ、いいぞ。』

「よ、よかったぁ。」

『・・・断ると思ったのか?』

「そういうわけじゃないけど、部活で疲れてるかなもなって思って・・・。」

『疲れてても行く。お前からの誘いなら。』


ヒカル君の言葉に思わず手近にあったクッションに手を伸ばして抱きついた。
疲れてても、っていうのは本当は私が嫌でそうならゆっくり休んでほしいのだけど、その言葉に嬉しくなってしまうのは何でなんだろう。



『なら、明日の放課後でいいか?』

「うん、部活終わるまで待ってるね。」

『あぁ・・・でも、雪からのチョコも、あ』

『女々しい男は嫌われるわよ、ヒカル。』



ヒカル君の声からまた突如、お姉さんに変わった。
『いい加減に』『いいじゃない、減るもんじゃないし』後ろでそんなわいわいと声がする。



『彼女ちゃん?』

「あ、はい。」

『ヒカル、あぁ見えて貴女からのチョコ欲しいみたいだからどんなものでもいいからあげてあげて。』

「は、はい。」

『今度遊びに来てね、ヒカルの愚痴聞いてあげるから。』



お姉さんは『じゃあね』と言うとそのまま電話を切ってしまった。ツーツーという電子音が聞こえる。
程なくしてヒカル君からメールがきた。



『電話またするとまた姉貴に邪魔されるからメールにした。明日楽しみだな。』



ヒカル君からのメールを見ながらケーキバイキングの割引券を見つめた。クッションに顔をうずめながら、早く会いたいという気持ちを抑え込む。
お姉さんに少し驚いたけど、悪い人ではなさそうだ。今度会えるかな?
そして机の上のチョコを見る。明日真っ先に渡しにいこう。そしてこう言うんだ。「昨日から会いたかったんだ」って。



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