今日は花火大会。部長の一声で会場入口に集合、のはずなのに・・・・。


「何で誰も来ねぇんだよ!」



正直言うと俺は完全に遅刻していた。たぶん10分ぐらい。なのに集合場所には誰もいない。他の先輩達はともかく、あの副部長もいない。あれ、もしかして俺集合場所間違えた?でも鳥居近くの階段前ってここしかないよな?



「あ、切原だ。」

「あ?」



振り返れば瀬名が。しかも浴衣姿だ。薄い水色に金魚の柄。帯は薄い赤。髪には簪も。



「・・・・。」

「おーい、切原起きてる?」

「ね、寝てねぇよ!」



咄嗟に視線を逸らす。見惚れた、とかじゃねぇ。絶対違う。あれだ、制服の時と雰囲気が違うからなんかへんな感じがしただけだ。うん。



「切原も花火見物?」

「まぁそんな所。お前も?」

「うん、誘われたの。」

「ふーん。友達?」

「ううん、幸村先輩。」

「はぁ?!」



出てきた人物に驚いてまた瀬名を見ると、瀬名は自分のスマホを俺につきつけてきた。
そこには確かに部長の名前と誘いの文字。そしてだめ押しの一言。
『真田に浴衣着せておくから、楽しみにしててねっ(b^ー°)』



「ってね。はぁ、楽しみ。」

「・・・・。」



部長の面白がってる表情が簡単に浮かんできた。浮かれた様子の瀬名を横目にしていると、ズボンのポケットに入れてあるスマホが震えた。見れば着信。しかも幸村部長。



「部長、今どこに、」

『あ、赤也?雪ちゃんと一緒だろ?ちょっと代わって。』

「はぁ?何スかいきなり・・・・。」

『いいから、いいから。』



出るなりいきなりそう言われ、しぶしぶ瀬名に俺のスマホを差し出す。



「ん?私?」

「部長がお前に代われってよ。」

「何だろ、もしもーし。」



というか何で部長は俺がこいつと一緒だって分かってるんだ?
瀬名は相づちをうちながら俺を見つめる。な、何だよ部長に何を吹き込まれてるんだよ。



「あー、はいお願いします。はい、任せてください。じゃあ。はい、切原。」

「・・・・。」



戻ってきた自分のスマホを受け取る。やたら機嫌がいい瀬名を見ながら耳につけるとケラケラと笑う幸村部長の声が。



『あ、赤也?』

「・・・何スか?」

『彼女連れて反対側の公園まで来て。』

「は?集合場所はこっちっしょ?」

『赤也と彼女2人はね。俺からのプレゼント。』



・・・やられた。完全に部長にはめられた。頭の中に面白そうに笑う部長の顔が浮かんだのをかき消す。



『じゃあそう言う事だから、ちゃんとエスコートしてくるんだよ赤也。』

「面白がってるっしょ、部長・・・・。」

『そんなことないって、応援してるって。』

「・・・・。」

『それじゃあ後でね。』



そう言って通話が切れた。スマホをまたポケットに戻すと、不思議そうに俺を見つめる瀬名の姿が。



「幸村先輩何だって?」

「集合場所間違えて伝えたから、こっちに来いだとよ。」

「そっか。」

「お前は、部長に何言われたんだよ・・・・。」

「秘密!」



笑顔でそう言った瀬名。何だよ秘密って!?余計に気になるだろ!?
そんな俺に瀬名はまた一方近づいてくる。とっさに一歩下がる。



「・・・切原、何か私の事避けてない?」

「はぁ?そ、そんな事ねぇよ。」



視線を逸らす俺に一層近づいてくる瀬名。近い近い!



「分かった、あれでしょ?お腹すいてるんだ。」

「・・・・ばーか。」



何かイラっとして瀬名にでこぴんをした。「いた!」と言っておでこを押さえる姿は、なんか、可愛い・・・・。



「くだらねぇ事言ってないで、さっさと行くぞ。」

「はーい。」



そう言って歩き出そうとすると、瀬名が俺のTシャツの裾を掴んだ。思わず瀬名を見つめる。



「何?」

「何で俺の裾掴んでんだよ。」

「だって迷子になるの嫌なんだもん。」

「だからって何で服掴むんだよ。動きにくいんだよ。」

「じゃあ、手だったらいい?」

「は?」



瀬名はそう言うと俺の服の裾を掴んでいた右手を離したと思ったら、俺の左手を取った。



「お、お前・・・・しゃ、しゃーねーから手貸してやる。」

「ありがとう、そう言う所切原は可愛いよね。」

「はぁ?可愛い?俺が?」

「うん。」

「やめろよ、寒気がする!そ、それを言うならお前の方、だろ・・・・。」

「え?」

「浴衣、似合ってるって言ってんだよ・・・・。」



瀬名の手は想像以上に小さくて柔らかかった。その手を握りかえしてそう言った。
いつものような言葉が返ってくるかと思ったのに返事は返ってこない。瀬名を見れば、予想外に顔が赤かった。そんな瀬名の表情にこっちまで赤くなる。



「と、とにかくさっさと出発するぞ!」

「お、おう!」



そう言ってそのまま俺達は歩き出した。柄にもなく心臓がバクバクいってるが、左手を離す気はない。これから人ごみの中2人して同じような顔で紛れれば大丈夫だ。多分。とりあえずこの顔と口のにやけを先輩達の所に行くまでにどうにかしねぇと。


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