跡部君に呼び出されたと思ったら睨まれ、「何したんだお前」と言われ。
忍足とがっくんには「なんかめちゃくちゃ落ちこんでたぜ」「何かあったんやろ?そうなんやろ?」と問い詰められ。
日吉君には哀れみの表情で「あいつに何したんですか、あんた。」と言われ。
そして宍戸には・・・・何故か怒られています。



「聞いてんのかよ。」

「き、聞いてますよ・・・・。」



長太郎君、何でも最近部活で散々なのだと言う。ランニングでは遅れ、サービスをすれば外し。おまけに今日は部室の入り口で頭を強打したらしく、今は保健室にいると言う。



「長太郎があんなになるなんて、お前が何かした意外にねぇだろ。」

「・・・・・・。」

「で、何したんだよ?」

「いや、あの、したって言うか、されたって言うか・・・・・。」



そう、正確にはされたのだ。私が。長太郎君に。え、何されたか?そ、それは・・・・き、き、キ、キス、を。ほっぺとかじゃなくて、く、唇にされました。



「あぁ?何だよ?」

「い、言えるかぁぁ!!」

「あっ、おい!」

私は宍戸から逃げるように走りだした。後ろから追いかけてくるんじゃないかと思ったけど来なかった。
数日前、帰りがけに長太郎君にキスされた。突然の事で驚いた私は驚きのあまり長太郎君の頬を叩いちゃったのだ。目を丸くさせている長太郎君を残して私はそのまま逃走。家に帰ってから猛烈に後悔した。それから長太郎君を避けてしまって・・・・今に至る。
いやだって、びっくりしたんだよ。自分でもなんであんな事しちゃったんだろうって思ってるよ?謝らなきゃいけないって思ってるけど・・・・・。



「あ。」

「あ。」



気づいたら保健室の前にいて、出てきた長太郎君と鉢合わせてしまった。一瞬真っ白になって逃げようと思うより先に、長太郎が私の腕を取って保健室の中に引きずりこんだ。大きな音を立ててドアが閉まる。



「長太郎君・・・・・。」

「す、すみません。いきなり・・・・。」



腕を掴まれたままの私は長太郎君をちゃんと見れない。謝るなら今しかないのに・・・・。
頭の中でそうぐるぐる考えていると、長太郎君の手が離れた。かと思うと次の瞬間には長太郎君が頭を下げていた。俗に言う土下座というやつだ。


「ちょ、長太郎君!」

「すみませんでした!謝ってすむとは思ってません・・・。」



長太郎君は頭を下げたままそう言う。私は急いで膝をつくと、長太郎君の肩に手をのせる。



「いや長太郎君、頭あげてよ。むしろ謝らなくちゃならないのは私の方なのに・・・・。」

「え、怒ってないんですか?」

「むしろ長太郎君が怒ってるんじゃないかと思ってたんだけど・・・・。」

「・・・・。」

「・・・・。」



やっと頭をあげた長太郎君はちょっと涙目だった。私はそんな長太郎君を見て途端に申し訳無さがまたこみ上げてきた。私はそのまま長太郎君に抱きつく。



「怒ってないよ、驚きはしたけど・・・・むしろ叩いちゃってごめんね。」

「嫌われたかと思って・・・よかった。」



長太郎君は小さくそう言うと抱きかえして私の胸に顔をうずめた。長太郎君のふわふわの髪が顔にあたって少しくすぐったい。でもいつも見上げてる彼を見下ろしてるなんて、ちょっとレアだ。
なんて思ってたら長太郎君が顔を上げた。



「クリスマス、跡部さんにお願いしたんです。」

「何を?」

「クリスマス会に雪さんを参加させてください、って。」

「え。」

「ドレスコードは一応あるみたいなんですけど、なんなら俺がドレスも用意しま、」

「いや、頑張る!頑張って用意するから大丈夫です!」

「・・・そうですか?」


跡部君主催のクリスマスパーティーに思いがけず参加になってしまった私。長太郎君と一緒に行ったらまたいろいろと聞かれそうだ。



「・・・長太郎君は私に甘すぎだよ。」

「そうですか?俺は逆にもっと甘えて欲しいです。」



そう言って笑った長太郎君に私は何も言えなくなってしまった。変わりにまた長太郎君に抱きついたらあやすように優しく髪を梳かれた。



「今度する時はちゃんと言ってからします。」

「へ?」

「キスしても、いいですか?」



王子様みたいに笑って言われたら断れるはずがない。
そう思いながら私は返事の変わりに目を閉じた。




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