飴、チョコ、クッキー、マシュマロ・・・・机の上にはお菓子がいっぱい。
それに目配せして近くにあったクッキーに手を伸ばすと、ヒカル君もマシュマロを一つ口に入れた。
「このお菓子、全部貰ったの?」
「あぁ、可笑しなお菓子だ・・・・ぷっ。」
そう言って嬉しそうに私にマシュマロを差し出したヒカル君。
今日はハロウィン。ここにある全部いろんな人から貰ったらしい。お菓子が貰える魔法の呪文を唱えているヒカル君の姿が目に浮かぶ。
「お前、今年は狼じゃないんだな。」
「うん、今年は海賊です!強そう?」
「気合い入ってるな。」
「ヒカル君は・・・猫?」
「狼男。」
ヒカル君はそう言うと今度はクッキーに手を伸ばした。
佐伯先輩は吸血鬼、黒羽先輩はフランケン、樹先輩はミイラ男、木更津先輩は魔女、首藤先輩はゾンビ、葵君はお化けに扮しているらしい。本当に男テニの皆さんは仲いいなぁ。ここに来るまでに遭遇してお菓子を渡した先輩達を思い出してそう思った。
「あ。」
「ん?」
「トリックオアトリート。」
ヒカル君はクッキーをもぐもぐ頬ばりながらそう言った。私は急いで鞄を漁る。
「あれ?」
・・・しまった。ない。ここに来るまでの間にお菓子を配り終えてしまったみたいだ。
「無いのか。」
若干そう言って眉の下がったヒカル君。その表情を見ながら正直に頷いた。
「ごめんね。」
「まぁ、残念だがないなら仕方がない。」
「本当にごめんね・・・・。」
あぁ、ヒカル君の分を最初に渡そうとちゃんと取っておいてたはずなのに・・・・。
「でもハロウィンって、お菓子もらえなければ、悪戯していい日なんだよな。」
そんな落ちこむ私に予想外の言葉が聞こえてきた。ヒカル君の方を見ればいつもと変わらない様子で新たに金平糖に手を伸ばしている。
「・・・え?」
「悪戯。雪お菓子持ってないならしてもいいって事だよな。」
そう言ったヒカル君は一人で納得したようにうんうんと頷くと、私の前に手を出してきた。
「こ、これは?」
「悪戯するから、手乗せて。」
そう言うヒカル君の顔を見つめるがやっぱり何を考えているかなんで私には分からない。とりあえず恐る恐るヒカル君の手に自分の手を乗せるとゆっくり握られた。
「な、何するの?」
「狼男だけど取って喰ったりはしないから。」
ヒカル君はそう言うとどこからか黒のマジックを取り出した。
そしてそれのキャップを口で外す。
「え、今年は海賊だから、ひげ、書けないよ。」
「ひげじゃなくて。」
そんな私をよそにヒカル君は私の手をひっくり返し、私の手の甲に大きく「あまね」と書いた。おまけに小さいハート付き。
「・・・これでよし。」
「・・・・。」
言葉が出ずに口をパクパクとさせる私にキャップを片手で閉めるヒカル君。そしてまた私の手をひっくり返すと、私の手のひらに金平糖をのせた。
「ヒカル君、これ・・・・。」
「あっ、バネさん。」
ようやく絞り出した声だったけど、ヒカル君は黒羽先輩の姿を見つけたようでそのまま私の手を離して行ってしまった。
そんな彼の背中を目で追うと、後ろから大きな魔女の帽子を被った木更津先輩がやってきた。
「面白そうな事してるね。」
「えっ、あっ、これは!!」
「クスクス、顔真っ赤だよ。」
木更津先輩にそう言われてとっさに手の甲を隠すが、木更津先輩はお見通しみたいだった。顔が熱い。
私は皆さんが戻ってくるまでになんとか顔の赤みを戻そうと、手のひらにのった金平糖を口に放り込んだ。
/Halloween!\
「何だダビデ、なんか楽しそうだな。」
「うぃ。ハロウィン万歳。」
2012/10/31