バネさんのせいで海にダイブした。おかげでずぶ濡れ。無事なのは雪に貸したパーカーだけ。



「お帰り。」



オジイの家に避難した俺は風呂を借りた。服はバネさんが家に戻って持ってきてくれた。そんなバネさんは俺に服を届けると花火を買い足しに行くと言ってサト君と出かけてしまった。サエさんはさっきやった花火の片付けとオジイの代わりに庭の草むしりをすると言っていた。
オジイは外出中だけど、みんなかって知ったる家だった。タオルを肩にかけたまま居間に入ると亮さんが俺の方を見てそう言った。その横で剣太郎がじっと何かを見つめている。



「剣太郎、何やってんだ。」

「クスクス、あれ。」

「あれ?」



亮さんに言われて見れば雪が机につっぷしていた。側には畳まれた俺のパーカーが。



「疲れて寝ちゃったんだよ。」

「剣太郎と一緒にはしゃいでたからね、彼女。」

「え、僕そんなにはしゃいでた?」

「クスクス、とってもね。」



亮さんはいつものように笑うと、雪をじっと見つめている剣太郎の首ねっこを掴んだ。



「剣太郎、見すぎ。」

「ほ、ほら、このままにしてたら風邪ひいちゃうよ!」

「それなら大丈夫、なぁダビデ?」



亮さんがそう言うと俺の方を向いた。
肩に掛けていたタオルを取って机の上に置けば、剣太郎が何故か亮さんの上着を手にした。



「・・・・・・とにかくこのままだと本当に風邪引いちゃうよ。よーし、ここは部長の僕が亮さんから借りた上着を掛けて・・・。」

「ダメ。」

「えー!」

「えー、じゃない。」

「クスクス、ダビデ、なんか番犬みたい。」



また頬を膨らます剣太郎の横で亮さんがそう言う。俺はその言葉を無視すると、雪に近づき肩に手を添えてそっとその体を横たえた。相変わらず小さい。そして細い。まぁ、俺と比べたら当たり前だけれど。
そして折角畳んでくれて申し訳ないけど、俺のパーカーを名前の上に掛けた。その隣にあぐらをかくと、剣太郎が残念そうな表情をしていた。




「何。」

「・・・・・ダビデ、やっぱりずるい。」

「・・・・・ワンワン。」

「いいなぁ、僕も早く彼女欲しい。」

「まぁ・・・・頑張れ。」

「・・・・ダビデの馬鹿ぁ!」



剣太郎はそう言うと、コロンと横になると俺に背を向けた。亮さんに視線を向ければ、笑いながら肩をすくめた。
俺は雪の髪に手を伸ばす。思ったよりも柔らかくて細かった。
そんな俺を見て亮さんがまたクスクスと笑うと、横になった。髪をまとめると、「あ」と思い出したように俺の方を向いた。



「ダビデ。」

「何?」

「番犬はいいけど、狼になっちゃダメだよ。」



亮さんは小さくそう言うと剣太郎と同じように俺に背中を向けた。その言葉に唖然とした俺は我に返って咄嗟に雪の髪に触れていた手を離した。
そしてすやすや眠る雪に視線を落とす。そして息を吐くと、俺も雪の横に横になった。
聞こえてくるのは小さい寝息だけで、なんとも気持ちよさそうだ。俺はもう一度パーカーを掛け直すと、目を閉じた。狼が出てくる前に眠ってしまおう。





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