ゲームカウント0−5。しかも始まって13分。
余裕も余裕、楽勝楽勝。次は俺のサーブだし、さっさと終わらせて・・・・。



「切原ぁー、頑張れー!」



突然聞こえてきたその声にサーブを決めた俺は固まった。
聞き覚えのある声が俺を呼んだからだ。いや、聞き覚えがあるどころじゃねぇ。



「ファイトー、切原ぁ!!」



そう言ったのはまぎれもなく瀬名だった。しかもベンチに、幸村部長の隣に座って俺の試合を見ている。
はぁ?何であいつが!!??



「チェンジコート。」

「やべっ!」



あっけにとられすぎて1ゲームを落とした。マジかよ、この俺が・・・・・。
水分補給も兼ねてベンチに近づくと、何も知らない瀬名は俺に手を振っていた。



「赤也、急に動きが悪くなったけどどうしたんだい?」

「そうだよ、切原。」



幸村部長が(絶対面白がって)そう俺に聞くと、瀬名も頷きながらそう続けた。
俺はラケットを背負うと、瀬名を睨みつけた。



「何でお前がここにいるんだよ!!」

「幸村先輩に入れてもらった。はい、タオルとドリンク。」

「ちょっ、部長!!」

「さっき彼女に助けられちゃってね。」



俺は瀬名からそれを受け取ると、一気にドリンクを流し込んだ。
そんな俺をベンチの後ろで丸井先輩と仁王先輩がにやにやしながら見ている。



「応援にきてくれた子達同士がもめちゃっててね、それを彼女が仲裁してくれたんだ。」

「本当に?」

「な、本当です!ネゴシエーターの雪と呼んでくれ。」

「呼ばねぇーよ。」

「じゃぁ、俺が呼ぼうかのぉ。」

「俺も呼んでやってもいいぜぃ?」

「俺も呼ぼうかな。」



絶対にこの人達俺の反応で遊んでやがる・・・・。持っていたドリンクがミシっと小さな音を立てた。
そしてタオルも奪うように受け取ると、それで汗を拭った。



「それに彼女、報道委員らしくてね。今度の学校新聞に男子テニス部の事載せたいから取材したいんだって。」

「はぁ?取材?ってかお前、報道委員だったのかよ!?」

「赤也、お前雪と同じクラスじゃないんか?」
「そうっすよ。」

「何で知らねぇんだよぃ。」

「あぁ、切原委員決めの時寝てましたから。」

「バカ、お前!」

「へー。それについては後で真田と蓮二も交えてじっくり話し合おうか、赤也。」

「・・・・・・はい。」




ってか、本当に何でこいつはこうタイミングが悪い時にやってくるんだよ!!
余計な事がばれて、仁王先輩と丸井先輩に余計ににやにやされた。くそ、後で覚えてろ・・・・。



「というかお前、それを口実に副部長見に来たんだろ?!」

「それは勿論!!!」



否定するどころか思いっきりうなづいた瀬名に怒りを通り越して呆れた。自分で言って自分で凹む。
瀬名は胸の前で手を組むと、隣のコートに視線を移した。そこには真田副部長と柳先輩がダブルスで戦っている。容赦なく打球を打ち込んでいる。



「順番的には、取材、真田先輩、切原の応援。」

「俺一番最後かよ!!」

「当然でしょ?」



俺は真田副部長を睨みつけた。畜生、まだ俺はあの人に敵わないらしい。
瀬名がまだ副部長の方を向いていて、持っていたノートにさらさらと何か書き始めた。俺はそれを見てますますイライラしてくる。
俺は持っていたドリンクとタオルを無理やり瀬名に押し付けた。



「え、ちょっと、何?」

「いいか、瀬名!」



俺はそう言うとラケットを瀬名の前に付きつけた。
完全に副部長から俺に視線が戻ったのを確認すると、瀬名が大きな目で俺だけを見つめる。



「このゲーム、さっさと終わらせてやる!」

「え、えぇ?」

「だから、俺の試合が終わるまで絶対に他のコート見るんじゃねーぞ!絶対に最後まで見てろ!!」



俺はそう言い放つと、足早にコートに向かった。
背中から仁王先輩と丸井声援が聞こえてくる。



「切原ぁ!」

「何だよ。」

「・・・・5分で終わらなかったら、他の所に取材に行くからね。」

「・・・・・・上等じゃん。」




瀬名からの声援はそれだけで十分だった。
5分?楽勝、楽勝。
ちゃっちゃと終わらせて、絶対に副部長の取材を阻止してやる。



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