「ひゃぁ!!」


放課後図書室で勉強をしていた私の首筋にひんやりとしたモノが触れた。
思わず変な声を上げて振り返れば、そこには本を持った日吉君の姿が。



「ひ、日吉君・・・・。」

「何してるんだ?」

「今度数学で小テストあるでしょ?それの勉強。」

「・・・・。」



数学の問題集とにらめっこをしている私。今度授業で小テストがあり、点数悪かったら補習があるとか・・・・・・考えただけでもブルーな気分になってくる。
日吉君は私の隣の席に座ると、私の数式が書かれたノートをとんとんと指で叩いた。



「ここ、計算間違ってるぞ。」

「え、嘘。」

「どうして7−4が2になるんだ。」

「えっと・・・・あぁ!」

「はぁ。」



日吉君はため息を付いた。そりゃ日吉君は数学得意なんだろうけど、私は苦手教科なのだ。
指摘された箇所を消しゴムで消して書き直す。日吉君はそんな私の問題集を覗き込む。急に近くなった距離に心臓が少し早くなる。



「えっと・・・・・教えてくれるの?」

「・・・・不服か?」

「いや、とんでもないですお願いします!」

「ふんっ。」



日吉君は私の問題集のある一問をまたとんとんと指で叩いた。おそらくその問題を解け、という事だろう。私はノートに計算式を書き写す。
・・・・・しかし私の手は途中で止まり、頭の中もxとyでこんがらかってしまった。



「ヒント、やろうか?」

「本当に?」

「あぁ。」



私が顔を上げてそう言う日吉君を見つめると、面白そうににやりと笑った。
ん、この表情は・・・・。



「ひやぁ!」

「さっきも思ったが、可愛げのない声だな。」



私の首筋にさっきと同じひんやりとしたモノが触れた。
それは日吉君の手であり、その手は私の首筋をなぞって今は私の髪で遊んでいる。
そんな彼の行動に、xとかyとかも一気に吹き飛んだ。



「日吉君?」

「x+y=3を、x=-y+3にしてやればいい。」

「そうじゃ、なくて!」

「それで答えは出る。」



日吉君はそう言うと目線でノートを示した。私は仕方がなくノートに向き直り日吉君の言われた通りに数式を解いていく。
・・・・・・・・自分でもおどろくぐらいあっという間に解けた。



「で、できた。」



私がそう言って日吉君を見ると、私の髪を指でくるくると遊ばせていた日吉君が笑った。そして髪から手を離して立ち上がる。



「あっ、ありがとう日吉君。」

「まぁ、自分の彼女が補習を受けるもなんかしゃくだからな。」

「・・・・・そう、ですか・・・。」



ノートに書かれた数式に視線を落としながらそう言う。
そうだよね、自分の彼女が馬鹿だったら嫌だよね・・・・。



「おい。」

「ん?」



日吉君に呼ばれて顔を上げれば、一瞬唇に柔らかいものが触れた。



「ヒントの礼はこれでいい。じゃぁな。」



そう言って足早に去っていく日吉君の後姿を眺めながら、ようやく私は彼にキスされたのだと気が付いた。途端にさっきよりもより速くなった心臓の音を聞きながら私のノートの上につっぷした。
・・・・・・もうちょっと、数学勉強しよう。






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素敵な企画に参加させていただきまして、ありがとうございました!



こしあん (薔薇子/企画提出物)

2012/4/28




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