「瀬名。」



名前を呼ばれて振り向けば、天根君が手招きしていた。



「はい、行ってらっしゃい。」



絢ちゃんにそう言われて背中を押された。絢ちゃんはそのまま他の子と話を再開してしまった。
私は天根君の元に行くと、頭を撫でられた。



「どうしたの?」

「呼びにきた。」

「呼びに?」

「剣太郎と瑠璃さんがお前も呼んでこいってうるさくてな。」



今日は六角のお花見会。学校行事でこれがあるのは珍しいらしい。(それを知ったのは最近だった。)
天根君は今年もテニス部で集まるらしく・・・・・葵君はともかく、マネージャーさんにまで呼ばれているのは何でだろう?



「お前は、大丈夫か?」

「うん、大丈夫だよ。」

「なら、行くか。」




天根君はそう言って私の頭から手を離すとゆっくり歩きだした。
天気もよくてまさにお花見日和だ。ぽかぽか天気でお昼寝でもしたら気持ちよさそう。



「桜綺麗だね。」

「そうだな。」



そう言って隣を歩く天根君をちらりと盗み見れば、桜を見上げていた。
天根君は無表情だと周りのみんなは言うけど、そんな事はないと思う。今みたいに瞳が優しく少し細くなったりとか、よく見れば結構表情豊かだ。



「何?」

「へ?」

「がん見されてたから。」

「えっ!してた?」

「うぃ。」

「さっ、桜綺麗だね!」

「さっきも言ってたぞ、それ。」



そう言って笑った天根君はちょっと意地悪だ。
顔に熱が集まってきて少し下を向いたら手を握られた。大きいその手を握りかえせば心までぽかぽかしてきた。



「場所はどこでやってるの?」

「コートの近く。」

「そっか。あれ?テニスコートの近くだと、方向反対だよ?」

「・・・・・・。」



私がそう言って天根君を見上げれば、視線を外した。
顔が少し、赤い。


「・・・ちょっとぐらい遅れたって、文句は言われないだろ?」

「そう、だね・・・・。」

「だから、もう少し・・・・。」

「あっ、いたいた。ダビデぇー!!」



そんな2人の間に遠くから聞き覚えのある声が聞こえた。
声がした方を見れば、葵君が手を振りながらこっちにやってくるのが見えた。



「・・・・・もう見つかったか。」



天根君はそう呟くとため息を付いた。
葵君の後ろから佐伯先輩とマネージャーさんの姿も見える。



「残念。」

「何が残念なの?」

「何でもない。」

「あっ、こんにちは瀬名さん。」

「葵君、こんにちは。」



やってきた葵君に挨拶をするとまた天根君はため息をついた。
それを見てやってきた佐伯先輩が天根君の肩をたたく。
そんな2人を見つめていたらマネージャーさんがやってきて私に耳打ちした。



「邪魔しちゃってごめんね。」

「じ、邪魔だなんて!」


私がそう言うとマネージャーさんはニコリと微笑んだ。



「遅いから迎えにきたんだよ。」

「・・・・・。」

「立ち話もなんだから、行こうか。」

「そうそう、みんな待ってるよ!」



葵君はそう言うと嬉しそうに歩き出した。その背中を佐伯先輩とマネージャーさんが追う。



「仲良いよね、テニス部の皆さん。」

「それがうちの売りだからな。はぁー。」



天根君はそう言うと今日何度目かのため息をついた。
そう言いながら嬉しそうなのが見てわかった。



「・・・・桜綺麗だね。」

「・・・・そうだな。」



そう言って歩き出すとまたどちらともなく手を繋いだ。





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