気になる人がいる。
それは毎朝私の家の前をランニングしていく人。
今日も自分の部屋かの窓から見える家の前の道を見下ろせば、バンダナを巻いて黒いタンクトップの人が走っていくのが見えた。
毎朝よくやるなぁ、と思いながら制服に着替えるのが毎朝の日課になりつつあった。
「雪、悪いんだけど学校行く前にゴミ捨ててって。」
「えー。」
「悪いんだけど、って言ったでしょ。よろしくね。」
母にそう言われてしぶしぶ承諾をした。支度を済ませて少し早めに家を出る。
置き場まではそう遠くはないが、反対方向と言えば反対の方向だ。
私はゴミ袋を持ってとぼとぼとそこに向かう。
「そう言えばあの人、この辺も走ってるのかな?」
置き場にゴミを置くと、そう考えた。
あの人とは毎朝私の家の前をランニングする人の事。どこの誰かも分からない人の事を考えるなんてなんとも不思議な話だ。
私はそう思いながら来た道を戻るためにくるりと方向転換をした。
「ぎゃ。」
それがいけなかった。
なぜか振り返った瞬間に猫が私の足元を走りすぎていった。それに驚いて変な声と共に尻餅をついてしまった。
「おい。」
そんな私に低い声がかかった。見上げればどこかで見た事のなるようバンダナと黒のタンクトップ。見れば私よりも少し上ぐらいの男子が私に手を差し伸べていた。
切れ長の目で私を見つめるその表情は・・・・・少し怖い。
「大丈夫か?」
「・・・・・・。」
「聞いてるのか?」
「はっ、はい。」
男子はそう言うと鋭い細い瞳を私に向けた。なんか蛇に睨まれた感じでとっても怖い・・・・・。
かろうじて返事をすると、私の腕を強制的に引っ張って起こしてくれた。
確かにそのバンダナと黒いタンクトップに見覚えがあった。もしかしてこの人が・・・・・・・いつも見かけるランニングの人!!??
私が驚いているとその人は私を睨むように見つめてきた。ギロという言葉がぴったり合うぐらいに。
そして何を思ったか頭に巻いていたバンダナを解くと、私に差し出してきた。
「え?」
「腕、擦りむいてやがる。」
「うわ、本当だ。」
「使え。」
「えっ、でも・・・・。」
「今日はまだそんなに走ってねぇから汚くもねぇはずだ。」
「いや、大丈夫ですよこれぐら・・・・・・。」
(ギロっ)
「・・・お言葉に甘えさせていただきます。」
私は視線に耐えきれずそのバンダナを受け取った。それを擦りむいた腕に巻く。
ランニングの人は満足したのか頷くと「じゃぁな。」とだけ呟いてくるりと背中を向けた。
「あぁ、あの!」
「何だ?」
「これ、洗って返します!」
「いやいい。そんなの腐るほどある。いらねぇなら捨てろ。」
「・・・・・・・。」
ランニングの人はそう言うとそのまままた走って行ってしまった。
私の気になっている人は怖そうな人だった。しかしそれと同じぐらい優しい人(?)だった。兎に角一旦家に帰って治療しよう。そして今度少し早起きをして家の前で張ってみよう。
そう思いながら私は遠くなっていく背中を見つめた。
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