「おい、瀬名。」
「何?」
「さっきダビデが探してたぞ。」
東堂君に呼ばれればそう言われた。
「まだ保健室にいるんじゃねーか?」
「えっ、保健室?」
「あぁ。」
「具合悪いのかな?」
「あー・・・・・・違うと思う。」
「・・・・とにかく行ってみます。」
私がそう言うと東堂君は「じゃーな」と言って行ってしまった。私は鞄を持つと足早に保健室に向かう。
保健室の前に着いてノックをする。しかし返事はない。ドアを開けば中には誰もいなかった。よくよく見たらドアの前に外出中の小さな看板が。ノックしてもいないわけだ。
「失礼しまーす・・・・。」
小声で言いながら保健室に入ると、風で舞い上がったカーテンが私の視界を覆った。障害物競争のようにそれをくぐり抜けて窓を閉める。カーテンの中からようやく脱出すると・・・・・・天根君を発見。
彼はベッドの上で寝ていた。
「・・・・本当に具合悪いのかな?」
東堂君は違うと言っていたけれど、姿を見つけたらなんだか不安になってきた。そっと近づいて顔を見れば、気持ちよさそうな寝顔だったので一気に安心した。
「それにしても・・・・・。」
部活とかで疲れてるのかな?もう直ぐお昼休みも終わってしまうんだけど起こすのが勿体無くなってきた。ベッドの横にしゃがむと眠る天根君の顔を観察する事にした。
・・・・本当に整った顔してるなぁ。鼻高いし、まつげ長いし。肌も綺麗だし。異性なんだけどちょっと羨ましい。
目を開くと尚更かっこいいし・・・・・・・・・。
「え?」
気づけば天根君と見つめ合っていた。暫くそのままだったが急に恥ずかしさがこみ上げてきて立ち上がる。
「お、お、起きてたの!?」
「あぁ。」
「いっ、いつから?」
「お前が窓閉めたぐらいからな。」
殆ど最初から!?
天根君は欠伸をしながらゆっくり起き上がった。そして頭をかくが、髪型は全く乱れていない。
「・・・具合悪いの?」
「いや、先生いなかったから勝手にベッドで寝てた。」
・・・本当に東堂君の言う通りだったんだ。
そんな私をよそに天根君は何やら制服をあさり始めた。そして右のポケットから小さい花柄の紙袋を取り出した。それを見つめて天根君の眉が少し下がる。
「・・・・しまった。」
「どう、したの?」
「ポケットに入れておいたら歪んだ。折角瀬名の為に買ったのに・・・・。」
そう言って肩を落とす天根君をよそに、私は嬉しくなった。
だって今・・・・。
すると彼は私の前にその紙袋を差し出した。なんとも申し訳なさそうな表情に思わず笑いそうになってしまった。
「お返し、バレンタインの・・・・。」
「あっ、今日ホワイトデーか。」
「・・・今気づいたのか?」
「うん。」
私はそれを受け取ると、天根君がベッドから降りた。いつも見上げているのに今日は見下ろしていて何とも不思議な感じだ。
「開けてもいい?」
「あぁ。」
少し歪んだ紙袋を開けると、中には小さい飴と髪ゴムが入っていた。私の好きな色が入ったふわふわの綺麗な花が付いている髪ゴムだった。
「ありがとう、天根君。」
「・・・・・気に入ったか?」
「うん、とっても。」
私がそう言うと天根君は優しく笑って私の頭を撫でた。
天根君からプレゼントを貰えるなんて思わなかった。これ宝物にしよう、うん。
私がそう思うとタイミングよくチャイムが鳴った。お昼休みが終わったのだ。
「お昼休み終わっちゃったね。」
「みたいだな。」
「早く戻らないと、」
私が言い終える前に天根君が私の腕を掴んだ。
「次の何?」
「えっ、授業?」
「うぃ。」
「歴史だけど・・・・・。」
「なら大丈夫。あの先生優しいから言い訳すればなんとかなる。」
「え、え?」
「もう少し・・・、一緒にいないか?」
そう言って視線を外した天根君の顔は少し赤い。
・・・そんな風に言われたら断れないよ。私はそう思いながら天根君の隣に腰を下ろした。
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