日吉君は律儀な性格だと思う。
バレンタインをくれた子一人ひとりにちゃんとお返しを配っている。ちゃんとそういう事をする人なんだなーと思った。意外だなぁ。
「お前、俺をいったいどんな奴だと思ってたんだ?」
眉間に皺を寄せた日吉君が私の頭を持っていた本で叩いた。
頭をさすりながら彼が持っている中身の少なくなった紙袋を眺める。
「何で私の考えてる事・・・。」
「エスパーだからな、お前の考えてる事なんてお見通しだ。」
「え!?」
「・・・・冗談に決まってるだろ。」
日吉君はそう言うと唇を釣り上げた。あぁ、もう。また私をからかって遊んでる。
私が少し唇を尖らせると、今度はデコピンされた。
「・・・痛い。」
「悪かったな、ほら。」
悪気もなくそう言った日吉君は持っていた紙袋の中から小さい紙袋を取り出した。そしてをれを私に差し出す。
ポカンとする私に日吉君はまた眉間に皺をよせた。
「・・・・・これは?」
「バレンタインのお返しに決まってるだろ。」
「あっ・・・そっか・・・・。」
「あっ、いたいた。日吉!」
私がその紙袋を受け取ると、向こうから鳳君が駆けてきた。
日吉君はそんな鳳君の姿を見て小さく舌打ちをする。
「・・・そんなに大きい声で呼ばなくても聞こえてる。」
「ごめんごめん。あっ、瀬名さん、こんにちわ。」
「こんにちは、鳳君。」
鳳君は日吉君の前にくると、いつものように笑った。
・・・相変わらず大きいなぁ・・・。
「あっ、それ、受け取ったんだね。」
「え?」
鳳君は私の持っている紙袋を見つけるとそう言った。
途端に日吉君の眉間のしわが深くなる。
「それ、日吉の手作りクッキーらしいよ。徹夜して作ったんだって。」
「・・・・。」
「それに今日朝から君にそれ渡すからなのかそわそわしててさ。」
「鳳っ!」
日吉君が珍しく声を荒げて鳳君の名前を呼ぶと、そのまま彼の制服のネクタイを掴んだ。前かがみになった鳳君は少し苦しそうだった。
「渡せてよかったね、日吉。」
「お前、余計な事をべらべらと・・・・・。」
「おっ、落ち着いて日吉君。」
「大丈夫だよ、照れてるだけだから。」
「・・・ちっ。」
日吉君は大きく舌打ちをすると、鳳君のネクタイから手を離した。解放された鳳君は少し首をさすると「よかったね」と口を動かした。
私は黙って頷くと少し赤くなった日吉君を見ながら貰った紙袋を抱きしめた。
「ありがとう、日吉君。」
「・・・・・・これで借りは返したからな。」
「うんっ。」
どんな顔でこれを作ってたんだろう?そんなか事を考えながらなんだかすごく嬉しくなった。
嬉しくなってゆるんだ口元を隠したら、また日吉君にデコピンをされた。
←