「先輩。」
「何、長太郎君。」
「俺、お願いがあるんです。」
そんな会話を聞くつもりはこれっぽっちもないが、耳に入ってくるんだから仕方がない。
そもそも何で部外者の瀬名先輩がいるんだ。今は部活中だ。
「お願い?何?」
「先輩の事雪さん、って呼んでいいですか?」
何時もの調子で鳳がそう言った。部活中に何を言っているんだ、あいつは。何時も以上にあいつの言動に呆れる。
言われた先輩も先輩で、飽きもせずに顔を赤くする。
「・・・・・え?」
「・・・聞こえませんでしたか?」
「いや、きっ、聞こえてました!」
「先輩は俺の事長太郎って名前で呼んでるじゃないですか。」
「そうですね。」
「なので、俺も先輩の事名前で呼びたいんです。」
「そう、ですね。」
視線を外した先輩は俺の姿を見つけたらしい。視線で助けを求めているのが分かったが、気づかないふりをした。
当然だ。あの2人に関わるとろくな事がない。
「あの、いいですか?」
「ちょっ、ちょっと待って!いや、嫌ってわけじゃないんだよ!?ただ心の準備とかいろいろあるんだよ!」
「はい。」
準備とか必要ないだろ。というかいい加減部活中だって気づけ。
「ちょっ、ちょっと待ってね!すー、はー・・・・・・・・いっ、何時でもどうぞ!」
「なんだかそんなにされると、緊張しますね。」
「長太郎君・・・。」
「はい、雪さん。」
「・・・・・・。」
鳳の方が先輩より一枚上手だと思った。たまにあいつのそういう所にいらっとするが、今日は関係がないから別にいい。
いつでもいいと言っていた先輩は鳳に名前を呼ばれて固まっている。
そんな先輩を見つめる鳳はおろおろし始める。
「あっ、あれ?雪さん?」
「なっ、何かすごく恥ずかしい。」
「俺もです。」
・・・・・・それはこっちの台詞だ。思わず声に出しそうになったのを必死にこらえる。
そう言ってお互いににやにやし始めた面倒くさい奴らに、ただただ呆れた。
「おい、日吉。」
「何ですか、跡部さん。」
「何ぼさっとしてやがる。さっさとメニューをこなせ。」
「・・・・・・。」
「いいな。」
「・・・・・・分かりました。」
・・・・・やっぱりあの2人に関わるとろくな事がない。心底そう思いながら舌打ちをすると、にやけた顔で戻ってきた鳳の頬をつねってやった。
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