「大丈夫か?」

「だ、大丈夫です・・・・。」




息も切れ切れにそう言った私に、天根君はただ黙ってベンチから立ち上がった。
私は息を整えながら乱れた髪を直す。あぁもう、せっかくセットしてきたのに・・・・。




『日曜日・・・・暇か?』


突然かかってきた天根君からの電話でベットから落ちかけた。しかもそんな事を言われて携帯を落としかける。
勿論予定もなにもないので「暇だよ」と返事をすると、しばらくの沈黙の後にこう言われた。


『なら、俺と・・・・・ケーキバイキング行かないか?』


・・・・勿論二つ返事ですぐに答えた。電話を切ってからしばらくたって、もしかしてデートに誘われたんじゃないか?と一人でパニックになった。
そして我に返り着ていく服をクローゼットの中から引っ張り出した。途中で辞書を返しに来た弟に決まった服はどうかと尋ねると「別に何でもいいじゃん」と言われた。とりあえず近くにあったクッションを投げつける。(かわされたけど)
そしてあっと言う間に当日になった。しかも起きたら待ち合わせの30分前。急いで支度をして家を飛び出した。その場所に着いたのは待ち合わせ時間10分後。案の定天根君は既に来ていて・・・・・・・・・・・今に至るわけで。





先を歩く天根君の顔はいつもと変わらないが、待ち合わせてから一言も話をしていない。・・・・・やっぱり私が遅刻しちゃったから怒ってるよね。折角お休みの日に誘ってくれたのに・・・最悪だ。



「着いた。」

「え?」

「ここ。」



ようやく口を開いてくれたと思ったら、どうやら目的地のそのお店に到着したみたいだった。淡いピンクの軒がある可愛らしいお店だ。
天根君はドアを引くと、綺麗なお姉さんが笑顔で出迎える。店内に案内されると中央にケーキがたくさん置いてあるのが見える。



「こちらの席へどうぞ。」



お姉さんがそう言ってお水を置くと、天根君が奥の席にコートを脱いで座った。
私の急いでその向かいの席に荷物を置くと座る。
そしてまた、沈黙。周りの人の声も聞こえるはずなのに、なぜだかすごく静かに感じる。



「あの・・・・ごめんなさい。」

「何が?」

「遅刻、しちゃったから・・・。」

「あぁ、別に気にしてない。まぁ、心配はしたけど。」

「・・・・・・・・。」



天根君はそういうとお水が入るコップを私の前に置いて、自分の分も手にするとそれに口を付けた。私も一口飲むと、冷たい水を飲んでいるはずなのに申し訳なさからか恥ずかしくなった。
はぁ、何でこういう日に限って目覚まし時計は鳴らないんだろう・・・。



「それに・・・・・。」

「え?」

「・・・・・俺も早く着すぎてたからな・・・。」



視線を反らしてそう呟いた彼は、水を一気に飲み干した。その時の顔がちょっと赤くなってたのは、気のせいじゃないよね?
そして立ち上がって私の横にくる。



「ほら、ケーキ取り行こう。」

「・・・うん。」



そう言って差し出された手に私は自分の手を重ねた。そして私も立ち上がると中央にあるケーキがたくさん置いてある方に歩き出す。
手をつないだだけで嬉しい気持ちになるなんて、なんて単純なんだろう私。



「ごめんね天根君。ありがとう。」

「ありがとうはいいけど・・・・・ごめんは和めん・・・・ぷっ。」

「あはははは。」

「・・・やっと笑ったな。」



天根君はそう言うと私の頭をぽんぽんと撫でた。そして優しく微笑む。



「でも天根君よくこういうお店知ってたね。」

「あぁ、姉貴に教えてもらった。」

(お姉さんいるんだ・・・。)

「ここカップルだとちょっと安くなるらしい。」

「へー。」

「姉貴と来ようかと思ったんだけどこういうのは彼女と行け、って言われて・・・・・。」

「・・・・・・・。」



中央にたどり着くと色とりどりのケーキが。それを見つめながらそう言った天根君の言葉にやっぱり恥ずかしくなって、手を解いてお皿を取る。



「はい、お皿・・・。」

「うぃ。」

「いっぱいあるね・・・・。」

「そうだ、瀬名。」



名前を呼ばれて顔を天根君に向ける。



「何?」

「可愛いな。」

「え?」

「私服。似合ってる。」

「・・・・・・・・・・・。」



天根君はそう言って笑うと、イチゴの乗ったケーキを一つお皿に置いた。
思わずお皿も落としそうになった私に、天根君は面白そうにくすくす笑う。



「か、からかってるでしょ!」

「いや本心、本心。」



そう言いながらまた一つ違うケーキを取る天根君を見つめながら、私もイチゴの乗ったケーキを一つ取った。
・・・・天根君だって、すごくかっこいいよ私服。いつこの台詞を言おうかと私は次のケーキをお皿に取りながら作戦を考えた。






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