「キスしたい。」



放課後、図書室で天根君と宿題を一緒にしていたらそう言われた。もうすぐで最終下校時刻の図書室は天根君と私の２人だけしかいなかった。
驚く私に、見つめる天根君はペンを置いた。表情一つ変えずにいる天根君をよそに私の心臓は早くなる一方だ。



「嫌？」

「嫌、じゃないけど・・・・・。」



曖昧に言葉を濁す私に天根君が近づく。右手を机に置いて顔を近づける。
そんな彼の顔を手でガードすると、眉間に皺がよった。



「ちょっと、まっ、待った！」

「・・・・やっぱり嫌か？」

「そうじゃ、なくて・・・・・まっ、まだ早いような・・・。」



心臓の音が、うるさい。
そんな私のガードしていた手を天根君は掴んだ。そして私の手を大きな手で包み込む。



「好きな奴にそう思うのに、早いとか遅いとか・・・ないだろ。」



呟くように、でもはっきりとそう言った天根君の顔は真剣そのものだった。綺麗な顔がゆっくりだけど確かにまた近づいてきて、私は恥ずかしさで目を閉じる。
しばらくしたら唇に柔らかいものが触れて、包まれた手の力が少し強まった。
やがて離れたのが分かりゆっくり目を開けば、少し赤い顔をした天根君がいた。視線が合ったらなんだか急に恥ずかしくなって私は急いで立ち上がる。



「あっ、私、借りたい本あったんだった、かっ、借りてくるね！」



逃げるように少し離れた本棚と本棚の間に入る。
心臓がドキドキを通り越してバクバクいっていた。顔に手を当てれば熱い。
奥まで進んで壁におでこを付けると、冷たくて気持ちが良かった。
本当は借りたい本なんてなかったのだけど、言ってしまったからには何か借りていこう。本棚を見て幾つか手に取った。



「瀬名。」



後ろから声をかけられた。誰かなんて分かりきっている、天根君だ。
さっきのを思い出してちょっと後ずさるが、すぐ後ろが壁だという事を忘れていた。そんな私を知ってか知らずか天根君は私の隣にやってきた。



「あったか？」

「うん、すっ、すぐ借りてくるね。」



そう言って足早に天根君の横を通って貸し出しを・・・・と思ったができなかった。
天根君の左手が私の腕を掴んだ。しかももう背中が壁に付いている。
どうしようと考えていたら天根君の手が私の頭を撫でた。そしてその手が頭から頬に降りてきた。驚く私をよそに天根君は顎をすくった。



「天根、君・・・。」

「瀬名。」



逆光で眩しい。そんな中天根君は私の名前を呼ぶと赤い顔をしかめた。
そして私の唇を指でなぞりながら身を屈める。



「・・・まだ、足りない。」



唇が触れるか触れないかの所で囁かれると、天根君はそのまま私にキスをした。
何度も重なる唇に頭の中が真っ白になっていく。胸が熱くなって視界がぼやける。身体に力が入らなくなって持っていた本が足下に落ちた。
天根君の腕が腰に回ったのでその腕にしがみついた。
うっすらと目を開けば、至近距離で天根君と目が合って。ぼやけていたけどいつもより近くて柔らかい瞳に余計に視界がぼやける。



「んっ。」



次第に苦しくなってきて天根君の制服を掴む。
それに気づいたのか天根君は私の頭の後ろに手を添えると、ゆっくり唇を離した。


「・・・・・悪い。」



そう言って私の髪に顔をうずめる天根君の耳は真っ赤だ。
私はそんな天根君の肩に顔を押し付けた。きっと私も彼と同じ顔をしているに違いない。
目を閉じれば私と重なるように早い天根君の心臓の音にまた胸が熱くなった。



「なぁ。」



囁くように言った天根君の低い声。私にはそれだけでとろけるように甘く感じる。



「好きだ。」



唇が動くたびに耳に触れて、少し目眩がした。
天根君の服を掴んでいた手を掴まれれば、彼の指が私の指に絡まった。頭の中が彼でいっぱいになる。
ねぇ、知ってる？多分私は天根君が思ってる以上に天根君が大好きなんだよ。




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