「何だそれ。」

「チョコの本。」

「えっ、お前まさかバレンタイン手作りすんのか?」

「するよ、勿論。」

「ふーん、俺はこれがいい。」

「ちょっと、勝手にマル付けるな!」



そんな会話をあいつとしたのは数日前。
バレンタイン当日の今日は朝からなんだか空気も甘ったるい。丸井先輩は朝っぱらから貰ったチョコ食ってるし、仁王先輩はいちいち受け取るのが面倒くさいとか言っていなくなるし、そのせいで副部長に怒られるしで朝からついてない。
そんな俺を知ってか知らずか柳先輩が俺を呼んだ。



「何すか?」

「お前に客だ。」

「客?」



俺が聞き返すと柳先輩は黙って俺の後を指を指した。それを辿って振り返れば、フェンスの向こうに瀬名の姿が。俺に気づいた瀬名はこっちに来いと手招きをする。そんなあいつを見てからちらっと柳先輩の方を見れば「行ってやれ」と言われた。瀬名は出入り口までやってきた。俺はラケットを肩に担ぐと瀬名に近づく。



「・・・何だよ。」

「誰にも気づかれないんじゃないかと思ってたけどいやぁ、流石蓮二先輩。」



瀬名はそう言うと柳先輩に向かって手を振った。柳先輩は視線をこっちに向けただけでそのまま部長の方に歩いていってしまった。
瀬名を見れば何やら小さい紙袋を持っていた。それを俺の方に差し出す。



「なっ、何だよこれ。」

「チョコだよ、皆さんの分もあるから。」



中を見れば赤い箱が一つ。そして小さい青い箱がもう一つ入っていた。



「もっ、もしかしてこれ・・・・・。」

「そう、真田先輩へのバレンタインチョコ!」



・・・・・・ちょっとでも期待をした俺が馬鹿だった。



「これ、これが真田先輩のだから、絶対ちゃんと渡してね。」

「直接渡せばいいだろ、何で俺が・・・・。」

「頼んだよ、切原!」



瀬名はそう言うと足早に去っていってしまった。ちくしょう、俺の気持ちも知らないで・・・・・。
渋々受け取ったそれを持ってコートに戻れば柳先輩は微笑んでいた。



「よかったな、チョコを貰えて。」

「・・・よくないっすよ。」

「雪ちゃんから貰ったのかい、赤也。」

「皆さんに、らしいっすよ、これ。」

「フフっ、ふてくされてるね。」



面白そうにそう言う幸村部長。そりゃふてくされもする。皆さんにと一括された挙げ句、好きな奴のチョコを渡さなきゃならないんだから。
そんな部長の後ろからやってきたのはその渡す相手、真田副部長。



「何をやっている。」

「赤也がチョコを貰ったんだって。」

「だから、これは違うって言ってるじゃないっすか。」

「それはそうと、弦一郎に渡さなくていいのか?」



呟くように言った柳先輩に俺は驚いた。何で言ってもいないのにもう一つの箱が副部長にだって分かるんだ?柳先輩には全部お見通しみたいだ。
俺はため息をつくと、その小さい青い箱を取り出した。そして真田副部長の前に突き出す。



「・・・・何だこれは?」

「チョコっすよ、瀬名からの。」

「瀬名・・・・・あぁ、前にお前の補修を見るように頼んだ時の。」

「・・・そうっす。」

「・・・・・そうか。」


しかし副部長はそうは言うものの、一向に受け取ろうとしない。



「受け取らないのかい?」

「学校でこのような物を持ち込んで、ましてや貰うなどというのは・・・・。」



・・・・・副部長は相変わらず堅かった。なんかイライラしたしてきた俺に幸村部長が笑ってフォローを入れる。



「いいじゃないか真田、もう部活終わったら帰るだけなんだし。」

「幸村・・・・いや、しかし。」

「雪ちゃんだってその方が喜ぶよね、赤也?」



何でそこで俺に振るんですか部長!?
俺は曖昧な返事をすると、副部長はようやくそれを受け取った。
・・・・後で絶対瀬名に何かたかってやる。



「赤也。」



そんな事を考えいた俺を副部長が呼んだ。副部長は小さい二つ折りの紙を見ながら箱を開けていた。そしてあろう事かその箱を俺に差し出してきた。



「・・・・・何すか?」

「お前も取れ。」

「はぁ?チョコ貰えたからって嫌がらせですか副部長?」

「たわけ!これを見ろ!」



そう言った副部長は見ていた二つ折りの紙を俺の前につきだした。
紙には綺麗な字で『真田先輩へ』と書かれている。



『お疲れ様です。皆さんでチョコ食べてください。
それから、一つお願いがあります。このチョコを切原にも分けてあげてください。これからも切原の事よろしくお願いします。』



そこにはこう書かれていた。チョコを見ればそれは俺が瀬名の見ていたチョコの本にマルを付けたチョコだった。



「好きなだけ食え。俺は残ったので構わん。」

「・・・・・俺はこれだけて十分っすよ。」



俺はそう言うと箱の中からチョコを一つ取った。
副部長は「そうか」と言って蓋をした。幸村部長が口が「よかったね」と 動いたのを見て俺はそのチョコを口に放り込んだ。
ほろ苦さが口の中に広がる。副部長に合わせて作ったんだろうが、それでもなんだか嬉しかった。
いつか俺だけの為に作らせてやる。そう決めるとあいつに何をたかろうか考えた。



2012VD's


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -