喧嘩をした。多分喧嘩なのだろう。
発端は昨日。俺が瀬名にバレンタインチョコはいらない、と言った所から始まった。
自分で言うのもあれだが、氷帝レギュラー陣のバレンタインデーは凄い。跡部部長は生徒会室から出れないほどだと聞くし、忍足さんは休んだ方が身の為やと言っていたのを記憶している。
そんな状況を目の当たりにすれば自ずとバレンタインとはそういうものだとインプットされる。
それを瀬名に告げると「そうなんだ・・・。」と目を伏せた。



「日吉君はバレンタイン嫌いなの?」

「・・・そうだな。騒がしいのは好きじゃない。」

「・・・・・。」

「・・・帰るぞ。」



そう言って隣を見ると瀬名は泣いていた。ため息を付いた俺に瀬名が言葉を吐き捨てる。



「日吉君の、バカぁ!!」



そう言って駆けていってしまったその背中を俺はただ呆然と見ていたのだった。
そして翌日、バレンタイン当日になった。バレンタインだろうが何だろうが部活はある。俺はいつも通り朝家を出るといつものようにコートに向かう。
今日はまだ誰も来ていないらしく俺1人だった。軽くアップをしてネットを張る。



『日吉君の、バカぁ!!』



突然瀬名に昨日言われた言葉が蘇ってきた。
不快になった訳でも、呆れた訳でもなかった。ただただ、驚いていた自分がいたのだった。
騒がしいのは好きじゃないのは本当だ。でも・・・・・・・・あいつの泣き顔は見たくなかった。どうやら俺は・・・・・・・・相当瀬名の言葉を気にしているらしい。
俺は頭を振るとタオルを取りに行こうと部室に向かった。
ドアを開けようとしたら先に開いて、出てきたのは跡部さん。・・・・・・朝から会いたくない顔に会った。



「・・・・・おはようございます。」

「朝っぱらからんな顔してんじゃねーよ。」

「すみませんね、俺は元からこういう顔です。」

「素直じゃねーな、お前。」



よけいなお世話だと心の中で言うと、部室に入り鞄の中からタオルを取り出した。



「ふっ、そんなんだから彼女に愛想尽かされんだよ。」


跡部さんはそう言うと俺の前に小さい箱を差し出した。見上げれば跡部さんは笑っている。



「・・・・・男から貰う趣味はないんですが。」

「バーカ、名前見てみろ。」



跡部さんに言われた通りリボンに付けられていたカードを見れば、そこには瀬名の名前が。



「なん、で・・・・・・・。」

「コートの周りうろうろしてやがったから声かけたら、これ渡すように頼まれたんだよ。」



「ほらよ」と言ってもう一枚四つ折りした紙が渡される。
俺はようやく小さい箱とそれを受け取ると、跡部さんがふんと鼻を鳴らした。
四つ折りの紙を開くとシンプルな便箋に小さな文字が。それに目を通すと俺はタオルを鞄に戻した。



「・・・・部長。」

「あーん、何だ?」

「急用を思い出したので、今日は部活休みます。」

「ふんっ、勝手にしな。」



俺はそう言うとラケットも置いて部室を飛び出した。後ろから聞こえた「頑張れよ」という声は無視した。
ただ手にしてる小さい箱の中ははチョコだと知った。それは四つ折りの手紙に書いてあったから。そしてごめんなさいの文字も。
気づいたら走り出していた。俺は校内にいるであろう瀬名を探す。
そして見つけた後ろ姿の腕を取って抱きしめた。



「えっ、ひっ日吉君?」

「好きだ。」



素直じゃない俺は謝る代わりにそう呟いた。
そんな俺に笑って「バレンタイン好きになった?」と聞いてきた瀬名に、俺は唇を押し当てた。
こんなバレンタインなら満更でもないなんて、口には絶対にしない。




2012VD's


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