ぐすっ。
涙が拭いても拭いても溢れてくる。
他の子ならもっと可愛く泣けるのかな、とぼんやり考える。



「はぁー。」



そんな私を見て盛大にため息をついたのは目の前にいる日吉君だ。
相談事を鳳君に言ったら廊下なのに涙が溢れてきた。それを通りかかった日吉君に見つかりそのまま手を取られて誰もいない図書室へ。
足を組み替えると机に肘を付いた。そして少し目を細めて私を見る。



「いい加減泣き止め。」

「ごっ、ごめんなさい・・・・。」

「で?」

「ふぇ?」

「何されたんだ?」



ぽろぽろと零れる涙はやっぱり拭いても止まらなくて、私に変な声を出させた。
日吉君は険しい表情で私をみると、とんとんと手で机を叩く。



「跡部さんのファンに何かされたんだろ?」

「え?」

「あの人のファンは陰険な奴らが多いからな。お前まで被害が及んだんじゃ、俺も報告せざる負えない。」

「ち、ちが・・・う・・・・。」

「はじゃぁ、鳳か?」

「だか、ら、違う・・・・。」

「じゃぁ何でお前は泣いてるんだ。」



涙を堪えながら日吉君を見れば少し眉間に皺がよっていた。
私は制服の裾を握ると少し下を向く。



「・・日吉、君が・・・・・。」

「俺が?」

「日吉君が、日吉君から、好きって、言ってもらった事ないから・・・・。」



鳳君への相談事というのはこの事だった。
付き合ってはいるとはいえ、私からは言ったけど日吉君から聞いたことはなかった。
そう伝えたら鳳君は笑って「大丈夫」と言ってくれた。
でも大丈夫じゃないよ、鳳君。恐る恐る日吉君を盗み見れば呆れたような表情の彼がそこにいた。



「馬鹿だな、お前。」



そう言った日吉君は少しうつむいた。
こんな事で泣く女、きっと面倒くさいとと思ってるんだろうな・・・・。
そう思ったら日吉君が彼と私の間にあった椅子を引いてそこに座った。距離が近くなる。



「日吉君、」

「言葉だけ欲しいのか?」

「え?」

「言葉だけが欲しいのかって聞いてるんだよ。」



私が顔を上げると、日吉君の瞳とばっちりぶつかった。反らすに反らせず、顔に熱がたまる。
日吉君はそんな私を知ってか知らずか私の制服のネクタイを触った。



「こ、言葉だけじゃ、嫌だ・・・・。」

「・・・・・・・なら、」

「でっ、でも今は・・・・今は言葉だけでいいです。」



私がそう言うと日吉君は少し目を丸くさせた。そしてふっ、と笑うと私のネクタイを放した。



「お前、本当に可愛いな。」

「・・・・からかってるでしょ?」

「それも俺の特権だからな。」

「・・・・・・・。」

「・・・一度しか言わないからな。」



日吉君はそう言うと私の肩に手を乗せた。そして顔を近づける。



「・・・好きだ。」



一瞬だったけど唇に触れた暖かさに、涙はすっかり乾いていた。





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