日吉君の機嫌が、悪い。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
忍足先輩と私がそう言うと、ジャージ姿の日吉君は先輩の腕の中から私の腕を掴むと自分の方に引き寄せた。
私が好きと彼に告げてか特に何事もなく日々が過ぎていたため、いきなり近くなった距離に胸が音を立てた。
しかしそう思ったのは一瞬で、次に日吉君の顔を見たら眉間に皺を寄せて何時も以上に不機嫌で驚いた。
そして沈黙。
「・・・何してたんですか、忍足さん。」
「何やひどい言われようやなぁ。」
「あからさまにそういう状況でしたからね。」
「ホンマ酷いなぁ、自分。そこのお嬢さんが階段から落ちそうになったんで、助けただけや。なあ、お嬢さん?」
「はっ、はい。」
「・・・・・・・・・。」
日吉君は眉間に皺を寄せたままで私を一瞬睨むと、その視線をまた先輩に向けた。
「傍から見たら抱き合ってるようにしか見えないんですよ。」
「そないに怒らんでもええやろ?男の嫉妬は見苦しいで?」
「忍足さん!!!!」
日吉君が強い口調でそう言うと、忍足先輩はくつくつと笑った。
そして眼鏡を上げるとくるりと背を向け、手を振りながら歩いていってしまった。
日吉君はそんな背中をしばらく睨んでから、はーとため息をついた。そして髪をかく。
「日吉く、」
「悪かったな。」
そう言いながら視線をそらした日吉君の頬が、少し赤い。
「さっき忍足さんが言っていた事は忘れろ、いいな。」
「うん。」
「・・・・・・何笑ってる。」
日吉君はそう言うと私のおでこにデコピンをした。
されたおでこを押さえながら私は唇のにやけを抑えるのに必死だった。
だって日吉君が忍足さんに嫉妬してるんだから。
日吉君は舌打ちを一つすると、掴んでいた私の腕を離した。そして私の手を包んだ。
「言っておくがな。」
「うん。」
「・・・・・・お前だから、だからな。」
日吉君は呟くようにそう言うと、私の手を取って歩き出した。
私はそんな背中を見つめながら、つながれた手の暖かさに嬉しくなった。
「・・・お前、本当に忍足さんに何かされたり、言われたりしなかったか?」
「えっと・・・・・言われた。」
「何を!?」
「『自分、足綺麗やな』って・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・。」
+++++++
この後しばらく忍足は日吉に下克上されます(笑)
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