長太郎君とアドレスを交換した。勿論宍戸経由で。私が直接聞けると思う?そうでしょ?無理です。はい。そうなんです。自分で言ってて悲しくなるぐらい。
初めてのメールでドキドキしている私に追い打ちをかけるように長太郎君から届いたメール。
『今度の日曜日、一緒に映画見に行きませんか?』
「行きゃぁいいだろ。」
宍戸はそう言うと紙パックのジュースを音を立ててすすった。そして右手でそれを潰す。
「跡部主催のクリスマス会が土曜なんだから、日曜だったら行けるじゃねーか。」
「そっ、そうなんだけど・・・・。」
「何だよ、何か用事でもあるのか?」
「・・・・ないけど・・・。」
「ならOKすりゃぁいいだろ?」
「だだだだって・・・・・。」
「まだ何かあんのかよ。」
「だって、一緒にって事は二人で、って事でしょ?」
「だろうな。」
「あぁぁぁぁぁぁ。」
そう言って机に突っ伏した私に宍戸の盛大なため息が聞こえた。
「で、何で俺の所に来たんですか?」
「相談、だよ、相談!」
「・・・・・・・・。」
日吉君に言ったら心底面倒くさそうな顔をされた。
「でさ・・・・。」
「・・・・・話は大体聞いてます。」
「宍戸から?」
「鳳から。」
「えっ!!??」
「気持ち悪いほどデレデレしてましたからね。まぁ、あんたも似たようなものだけど。」
日吉君はそう言うとユニフォームのファスナーを上げた。
「まだ返事してないみたいですね。」
「う、うん・・・・。」
「断るなら俺が鳳に伝えておきますけど。」
「だだだだめ!!」
「じゃぁ、行くんですかデート。」
「ででででで、デート!?」
「あいつがそう言ってました。」
「あぁぁぁぁ。」
私がそう言うと日吉君も宍戸と同じようにため息をついた。
そりゃ行きたいですよ。行きたいよ。とっても。でも長太郎君と二人きりとか・・・・・・・恥ずかしすぎる!
でも折角のお誘いだし、断るのも・・・・・。
「あぁ、どうしよう・・・・。」
「何がですか?」
聞き覚えのある優しい声が聞こえた。バッと顔を上げれば制服姿の長太郎君がそこにいた。
「ちょっ、長太郎君!」
「探してたんです。宍戸さんや日吉が会ったって言ってたから。」
そう言っていつのもように微笑む長太郎君。私がそんな彼の姿にあたふたしていると、長太郎君が私の前にか見覚えのあるキーホルダーが付いた鞄を見せた。
見覚えのある、というか・・・・・。
「先輩、部室に鞄置いてったでしょう?」
「そっ、そうでした・・・・。」
「先輩に会うつもりだったので、俺が持ってきちゃいました。」
そう言って微笑む長太郎君にきゅんとした。
あぁ、もう。しっかりしろ私!メールの返事を返す絶好の機会じゃないかぁ!
鞄を受け取りながらそう心の中で叫んだ。
「先輩?」
「あぁぁ、何でもないよ。うん!」
「・・・・・・・・・。」
「長太郎君?」
急に真剣な顔で黙り込んでしまった長太郎君。身長差があるので必然的に見上げる形になってしまうが、私は覗き込むようにその顔を見上げる。
「・・・・すみません。」
「え?何で謝るの?」
「宍戸さんとか日吉に聞きました・・・・この前の俺のメールで、先輩が悩んでるって・・・。」
悩んでるんだけど・・・悩んでないんだよ!!!
心の中でしかそれを言えない自分を呪った。
長太郎君はそう言って少し悲しそうな顔で私のを見つめる。
「迷惑だったり、用事があるなら断ってくれても大丈夫です!」
「ないです!迷惑も用事もまったくないから!」
「そう、なんですか・・・・・。」
「うっ、うん・・・・・。」
あぁぁぁぁ、言ってしまった・・・・。
宍戸や日吉君に相談していた私が馬鹿らしく思えてきた。あぁ、もう、あともう一言が、出ない・・・・・。
「なら・・・・。」
私のそんな思いを知ってか知らずか、長太郎君が私の手を取った。
感じる温もりに鼓動が早くなる。
「俺と一緒に、クリスマス過ごしませんか?」
・・・・・・そんな笑顔で言われたら、断れるわけがない。
「・・・はい。」
呟くようなその返事に、長太郎君が嬉しそうにまた笑った。
そして「帰りましょうか」と続ける。
「俺、話したい事沢山あるんですよ。」
そう言った長太郎君は手を握る力を強めた。
・・・・・私だって話したい事いっぱいあるんだよ。言葉にできない私は代わりに、その大きくて温かい手を握りしめた。
*********
面倒くさい二人はこれぐらいの距離で甘々なんですよ。
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