「そう言えばハロウィンですね。」と長太郎が楽しそうにそう言った。「あぁ」と曖昧な返事をして肩にかけてあるバックを背負い直しながら長太郎を見れば、何とも幸せそうな顔をしている。多分、というか絶対あいつの事を考えているに違いない。
あいつが誰だって?
あいつだよ、あいつ。俺の隣の席の面倒くさいあいつだよ。そう、長太郎の彼女のあいつだ。
「そう言えば先輩、当日にはお菓子配るって言ってました。」
「ふーん。」
「宍戸さんも貰えると思いますよ。」
そう言った長太郎実にデレデレしている。そうとうあいつが好きみたいだ。激ダサ。
噂をすればあいつが手を振りながらこっちに走ってくる。
「お前、なんて恰好してんだよ。」
「え?オバケだよ、可愛いでしょ?」
「はい、とっても可愛いです先輩!」
籠を持ちながらそう言ったこいつは頭からすっぽりとシーツをかぶり、顔だけ切り抜いてある。そして頭にはピンクのリボンが一つ。
なんて言うか・・・・シュールだ。オバケと言うよりてるてる坊主に近い。
「「トリックオアトリート!!」」
「そうくると思ってましたー。はい、ガックン、ジロちゃん。」
「やりぃ!」
「ありがとー!まじまじ嬉C〜!」
こいつの後ろからやってきたのは岳人と慈郎。
お菓子が入っているであろう包みを貰って嬉しそうだ。
あいつの視線が二人から俺たちに向いた。
「跡部君と日吉君見なかった?」
「さぁ?」
「日吉なら、さっき用があるって言って先に帰りましたよ。」
「跡部は生徒会室じゃねーのか?」
「うーん、そうかぁ・・・・仕方ない、後で渡そう。」
そう言ってしょんぼりと下を向いたこいつをどこからかやってきた忍足が頭をなでる。
「よしよし、俺が慰めてやるで。」
「触るな、メガネ。」
「・・・自分、俺になんか恨みでもあるん?」
「ある!もう長太郎君に変なこと吹き込まないでね!!」
そう言って忍足に舌を出すと長太郎の隣にやってきた。
長太郎は少し目を細めると、あいつのリボンを直す。
「可愛いですね、先輩。」
「さ、さっきからそれしか言ってないよ長太郎君。」
「事実ですから。」
長太郎にそう言われて、あいつの顔が真っ赤になっているのがここからでも分かった。
なんだかんだ言ってこいつも長太郎の事べた惚れ。激ダサだ、二人ともな。
「はい、宍戸にも。ハロウィンのお菓子!」
「おぉ、サンキュ。」
「はい、長太郎君。」
「ありがとうございます。」
こうなると完全に見ているこっちは完全にアウェーだ。
それぞれに視線を反らしたり、お菓子を堪能したりしている。
「いろいろなお詫びもかねて、皆よりちょっと多いです。」
「すごく嬉しいです。」
「一番出来の良かったのを長太郎君のにしたので、大丈夫なはず!うん。」
「おいおい、何だよそれ!」
「食えるんか、これ?」
「食べれるよ!!!」
こいつはそう言って自分で作ったクッキーをバリバリと食い始めた。おいおい、それ跡部と若に渡すんじゃなかったのか?
それを見ながら長太郎もクッキーを一つ取るとかじる。
「あっ、美味しいです。」
「ほっ、本当に?よかった〜。」
「でも俺はお菓子より、先輩が欲しいですけどね。」
長太郎のその言葉を、その場にいた全員が聞き逃さなかった。籠が小さな音を立てて下に落ちた。
全員が唖然とする中で長太郎は一人にこにことクッキーを頬張っている。
「ちょっ、長太郎・・・・・。」
「俺、なんか変なこと言いましたか?」
「鳳、自分大胆やなぁ。」
「え?」
忍足がそう言い終わる前に、長太郎のそばにいたあいつが倒れた。
床に付く寸前で長太郎がその体を受け止める。
「せっ、先輩!?」
「・・・・今のは鳳が悪いC−。」
「えっ、俺ですか?」
「いいからどっか運んでやれよ。」
「はっ、はい!」
長太郎はそう言うとそのままあいつを抱き上げると、部室の方に向かって歩き出した。
そんな後姿を見ながら、俺はため息をついた。
「なんや可愛ぇなぁ。」
「はぁ?どこがだよ。」
「宍戸には分からんやろうなぁー。」
俺は忍足の言葉を全力で無視した。
あぁ、とりあえずこの場に残されたこのクッキーどうすっか。
2011's Halloween!
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