放課後、テニスコートに向かう途中で天根君を発見。水道の前に立つ彼は長身なので目立つ。たとえそれが後姿だとしてもだ。



「天根く・・・・。」



声をかけようとして、それを止める。
見れば天根君は誰かと話していた。彼の前に立つその人は肩から下げた鞄からタオルを取り出すと、天根君に差し出した。
その人は女子生徒だった。制服を着て綺麗に笑っていた。しかも3年生、年上だ。思わず近くの柱の影に隠れる。



(あれ、何で私隠れるんだ?)



前にもこんな事があったと思い出しながらも視線を二人に向ける。彼女は蛇口を閉めた天根君を見ながら腰に手を当てた。傍から見たら美男美女のカップルと言われても不思議じゃない。
ここからじゃ何を話しているかは分からないけど・・・・・・とっても親しそうなのは確かだ。
なんだか胸がもやもやする。



「何してるの?」

「わっ!」



突然後ろから声がかかった。驚いて後ろを振り返ればそのにはユニフォーム姿の佐伯先輩の姿が。私を見ていつものように微笑んでいる。
「さ、佐伯先輩・・・・・。」

「ごめん、驚かすつもりはなかったんだけど。」

「いえ。」

「何してるの、こんな所で?何か面白いものでも・・・・・・・・。」



佐伯先輩はそう言うと私が見つめていた方に視線を向けた。そして一瞬目を丸くするが、すぐにいつもの先輩に戻る。



「あれは瑠璃とダビデだね。」

「え?」

「なるほど、あれを見てヤキモチかい?」

「えぇ!?」



確かになんだか胸がもやもやしたけど・・・・・これがヤキモチなのかは、自分でもよく分からない。
多分顔が赤いであろう私に佐伯先輩は悪戯っ子みたいに微笑む。



「なら、ダビデにもヤキモチ焼かせてみる?」

「え?」



佐伯先輩はそう言うと左手を胸に当てた。そして瞳を閉じる。



「ああ雲よ、月の女神よ。今だけは邪魔をしないでくれ。」



佐伯先輩が言ったその声は鈴のように辺りに響いた。その声に水道の前にいる二人もこちらに視線を向けるのが分かる。
しかし佐伯先輩はそんな私の髪に手を滑らせてゆっくり瞳を開け、そして綺麗に微笑む。
・・・・どこかで見た事があると思ったら、お花見の時に佐伯先輩が演じたロミオとジュリエットだ。



「会いたかったよジュリエット。さあ月の下で、お別れをしよう。すぐに君のもとに行く。」



佐伯先輩は言うと、私の髪にキスをした。



「サエさん!」



驚いて声が出ない私の腕を誰かが引っ張った。見上げればそこには天根君の姿が。
そこでようやく私は天根君の腕の中にいることに気づいた。



「やぁ、ダビデ。」

「サエさん、何してたの?」

「彼女にロミオのセリフを披露してたんだよ。」



佐伯先輩は笑ってそう言うと、天根君の後ろからさっきまで天根君と話をしていた彼女が現れた。
私よりも背が高く、大人っぽい。そんな美人な彼女さんは笑っている佐伯先輩の腕を掴んだ。



「サエ、ちょっと。」

「瑠璃。」

「ごめんね二人とも。サエには私からちゃんと言っておくから。」



天根君が黙ってそれに頷くと、彼女は佐伯先輩の腕を引っ張りそのまま歩いて行ってしまった。
そんな二人の背中を見送ると、天根君がようやく手を離してくれた。
見上げればいつもよりちょっと不機嫌そうな彼が。



「サエさんが言ってた事、本当か?」

「うっ、うん・・・・。」

「・・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・・。」



天根君は私から視線を反らすと、肩にかけてあったタオルを取った。
そのタオルはさっきの彼女のものだ。
それを見てまたちょっと胸がもやもやする。



「仲いいな、あの二人。」



話をそらすように二人が消えた方を見ながら天根君がそう言った。



「あの二人?」

「サエさんと瑠璃さん。昔からあぁだ。」



どうやらさっきの彼女は瑠璃さんと言うらしい。どうりで親しそうな分けだ。だって小さい頃からの知り合いみたいなんだから。



「マネージャーになってもあんな感じ・・・・まぁ、それが六角のいい所でもあるけど・・・。」

「そうなんだ・・・・・え、マネージャー!?」



思わず声を上げた私は急いで自分の口をふさいだ。隣の天根君はそんな私を不思議そうに見つめている。
あの美人な彼女さんは、男子テニス部のマネージャーさんだったんだ・・・・。



「そう、さっきの瑠璃さんがマネ。」

「そう、だったんだ。だからタオル・・・・。」

「タオル?」

「なっ、何でもない!」

「・・・・・・・・・。」

「え、何?」

「・・・・椅子に嫉妬・・・ぷっ。」



天根君はいつもみたいにダジャレを言うと私の頭に手を置いた。
また彼を見上げると、じっと真剣な表情で見つめられた。



「お前。」

「私?」

「・・・・ちょっと・・・・だ。」

「ちょっと?」

「・・・・・・・・。」

「・・・・・・・・。」

「・・・・・・無防備すぎ。」



天根君は呟くようにそう言うと私の髪をぐちゃぐちゃとかき混ぜる。ぼさぼさになったのが自分でも分かるぐらいに。
そんなぼさぼさの髪の向こうから見た天根君は少し顔が赤い。・・・・・・佐伯先輩、どうやら先輩の作戦は成功したみたいです。
手が離れて、天根君がタオルをまた首にかけた。私はぼさぼさの髪を整えながら、ちょっとだけ嬉しくなった。




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ただのロミオです(笑)




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