「もう、ダメだ・・・・・・。」
天根君は呟くようにそう言うと眉間に少し皺を寄せた。そしてそのまま机に突っ伏す。
そんな彼の頭にぱこーんと丸めた教科書が振り下ろされる。
「何が“もう、ダメ”だ!さっき休憩したばっかだろーが!!」
「バネさん、厳しい・・・・。」
「うるせぇ!元はと言えば、お前が宿題残してたのが悪いんだろ!」
黒羽先輩はそう言うと丸めた教科書を戻して開くと、反対側の椅子に腰を下ろした。
冬休みの宿題が残っていた天根君、そして黒羽先輩の隣に座る葵君はテニス部の部室で一緒に追い込みをしていた。
その場になぜ私がいるかと言うと、分からない問題を教える係なのだ。
再び起き上がりテキストとにらめっこする天根君と、プリントを見つめて頭を抱えている葵君。
そんな二人を見つめながら黒羽先輩が私に向かって口を開いた。
「すまねねぇな、急に呼び出して。」
「いいえ。」
「俺も何とか終わったけど教えるの皆みたいに上手くねぇからな。」
「他の皆さんは?」
「用事があんだと。あぁ、でもサエはもう少ししたら来られるって言ってたからそれまでは勘弁な。」
「はい。」
黒羽先輩の横で今度は葵君が机に突っ伏した。
葵君がやっているのは数学のプリントだ。
「ほら、剣太郎!さっさと終わらせちまえ!」
「もう無理ー、疲れたー。ダビデはさっき休憩したけど、僕はまだ休憩してないんだよ!」
「あー、そう言えばそうだったか?」
「そうだよ!いろいろダビデばっかりずるいよ!」
「む。」
「あー、分かった分かった!」
「やったぁ!」
葵君はそう言うと嬉しそうに立ち上がった。そして椅子に掛けてあったコートを羽織り、マフラーを巻く。その横で同じ動きをする黒羽先輩に視線を向ける。
「え、バネさんも一緒にコンビニ行くの?」
「勿論だ。監視も含めてな。それにサエが来るまでに戻らなくちゃならねーからな。」
「そ、そうだった・・・・。」
「そーいう事だからダビデ、さぼるんじゃねーぞ。」
「うぃ。」
「お前も、ダビデ甘やかすなよ。」
「は、はい・・・。」
黒羽先輩はそう言うと葵君を連れてコンビニに向かって出て行ってしまった。
部室に残ったのは天根君と私の二人。
「お、」
「お?」
「終わった・・・・・・。」
天根君はそう言うと今度はペンを置いて机に突っ伏した。私は手を叩くと、机の上に置かれた教科書を閉じていく。
「お疲れさまです。」
「お前のおかげで早く終わった、ありがとう。」
「ど、どういたしまして。」
「それに、サエさんが来る前に終わってよかった・・・・・。」
天根君はゆっくりと起き上がると、大きく伸びをした。その顔にはさすがに疲れが見える。
「・・・・佐伯先輩が?」
「・・・・・いろいろと、すごいからな。」
・・・・・さっきの葵君もそうだったけど、佐伯先輩の教え方はスパルタなのかな?
そう考えながらプリントをファイルの中に入れると、中指に痛みが走った。
見れば指の腹からつーと赤い血がにじんでいる。どうやらプリントで切ってしまったらしい。
「どうした?」
「あー、紙で手切っちゃったみたいで。」
「大丈夫か?どれ。」
「大丈夫、私絆創膏持って・・・・・。」
私がティッシュを取るよりも、天根君が私の手を取る方が早かった。
彼は私の手を自分の方に引き寄せると、私の中指を、口に、入れた。
「・・・・・・・・。」
「ん。」
絶句する私をよそに天根君は私の中指を含んだままだ。
彼の舌が傷口をなぞるのが分かって、顔に熱が一気に集中する。
「・・・・・あぁ、ぁぁぁ天、根、君・・・・。」
「何だ?」
「何だ、じゃ、なくて・・・・・。」
ようやく中指が解放されると、天根君は何事もなかったかのように近くに置いてあった救急箱から絆創膏を取り出した。そして丁寧に私の中指に巻く。
「これで大丈夫だ。」
「あ、ありがとう・・・・・・。」
心臓がバクバクと音を立てている私に追い打ちをかけるように彼は絆創膏にキスをした。
そして面白そうに私を見つめる。
「・・・・・・からかってるでしょ?」
「そんな事はない。」
「笑ってるよ。」
「可愛い。」天根君はそう言うと、私の頭を撫でた。
私は少しうつむいて絆創膏が巻かれた中指を見つめた。
「ごめん、遅くなった。」
それとほぼ同時に部室に入ってきた佐伯先輩に、多分真っ赤であろうこの顔をどう隠そうかとぼんやり考えた。
+++++++
なんか、非似になってしまった・・・orz
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