眠ってしまったさくらちゃんを私のベッドに寝かせると、天根さんはそのまま仕事へと出かけていった。私は明日の朝用にフレンチトーストを仕込んでその日はベットの横で私も眠った。
翌朝、朝食のフレンチトーストとホットココアを食べながら改めて女の子・さくらちゃんにどうして家出をしたのかを聞いてみることにした。


「・・・10月のパパの誕生日からパパにずっと『何がほしいか』ってきいても『なんでもいいよ』って言われてて。お店とかパパといっしょに行ってかんさつしたんですけどわからなくて、パパのまわりのみんなにもきいてもわからなくて・・・。なのでパパのお店にたまにおしごとで来るおねえさんにパパのクリスマスプレゼントのそうだんをしたんです。」

「お仕事で来るお姉さん?」

「コーヒー豆を売るおねえさんです。それで、そのおねえさんといっしょにパパにないしょでお買いものいこうとしてたらパパにバレちゃって。そうしたらそのおねえさんもお店に来なくなっちゃって・・・。パパには『どうして知らない人と買い物に行こうとしたの?』っていわれたけどひみつだからいえないのでだまってたらパパ怒っちゃって・・・。」


さくらちゃんのお父さんのお店に出入りしている女性と一緒にクリスマスプレゼントを買いに行こうとしたらそれがお父さんに見つかって中止になり、その女性もお店に来なくなってしまったと。さくらちゃん的には秘密にしたかったからお父さんが聞いても言えずに喧嘩になってしまったと・・・。後でちょっと天根さんに事情を話してみよう。
話を聞いてごちそうさまでした、と挨拶をして気がついた。
しょぼんとしているさくらちゃんに腹をくくって向き合った。


「ねぇさくらちゃん、パパへのクリスマスプレゼント作ってみる?」

「え?」

「私にはその、詳しい状況は話してくれた以上の事は分からないけどね、さくらちゃんがクリスマスプレゼント贈ってごめんなさいしたらきっとさくらちゃんのお父さんも許してくれると思うよ。」

「・・・でも。」

「ねぇさくらちゃん、パパは好き?」

「・・・大好きです。」

「よし、じゃあお姉さんが特別にさくらちゃんに魔法を教えてあげよう。」


だって私は魔法使いだからね。



「・・・そんな事言ってたのか、さくら。」


その後仕事から帰った戻ってきた天根さんとさくらちゃんを自宅まで送るのに私も付き添う事になった。電車に揺られながらさくらちゃんから聞いた話を天根さんに報告。向かいの席にいる天根さんは隣でうたた寝しているさくらちゃんを横目に見ながらそう呟いた。


「聞かれたんですか?」

「何が?」

「さくらちゃんにお父さん何が欲しいのかって。」

「・・・聞かれたような、聞かれてないような。」


曖昧だな・・・。さくらちゃんはそれに悩んで電車に乗って家出をするという大冒険をしていたと言うのに・・・。
電車は人もまばらでガタンという列車が揺れる音が響いている。


「コーヒー豆を売るお姉さん・・・サエさんに色目使ってたあの人かな。」

「知ってるんですか?というか色目って・・・」

「何回か見ただけだけどな。こいつの父親のサエさんは男前だから、サエさん目当ての客は多いんだ。勿論営業の人も女性が多い。その人もその内の1人だな。香水がキツめだったから覚えてる。」


私が思っている以上に状況は何とも生々しいものらしい。さくらちゃんも大変だ。さくらちゃんは父子家庭で小学校1年生。家はカフェをやっているとその後天根さんが教えてくれた。だからコーヒー豆の営業の女性。なるほど。
天根さんは私に視線を戻すと、私の隣に置いてある紙袋を見た。


「・・・それは?」

「これは・・・まだ秘密です。」


そう言って笑った私に天根さんが不思議そうに首を傾げた。



着いたのは海辺の高台だった。
『SAE CAFE』白い板張りの小さなかわいい建物にそう書いた看板。
こう、絵本とかに出てきそうなお店だった。さくらちゃんは電車から降りてから天根さんではなく私と手を繋いで歩いていた。少し前を歩く天根さんは何も言わずカフェのドアノブに手をかけた。そして慣れた様子でドアを開き中に入っていく。それを見てさくらちゃんの足が止まる。私の手を握る手にも少し力が入るのが分かった。


「・・・大丈夫だよ。」

「・・・うん。」


しばらくすると天根さんが戻ってきた。その後から・・・大人版のさくらちゃんが現れた。いや、この人がさくらちゃんのお父さんだ。瓜二つだから間違いない。その表情に少しだけ安堵が見えた。やっぱり怒っている訳ではなさそうだ。
しかしさくらちゃんはお父さんの姿を見ると手を離して私の後に隠れてしまった。そして私の服をまたぎゅっと握りしめる。


「・・・さくら。」


お父さんが彼女の名前を呼んだ。とても優しい声だ。見ればさくらちゃんが私を見上げていた。私は黙って頷くと、さくらちゃんの大きな瞳にみるみる涙が溜まる。そしてゆっくり私の後から前に出ると、駆け足でお父さんの元に飛び出した。しゃがんだお父さんにさくらちゃんが抱きついたのを見てほっと一息。
お父さんの胸でわんわん泣き出したさくらちゃんを見ていたら、天根さんと視線がぶつかった。安堵の表情を浮かべているのでどうやら彼も私と同じ気持ちらしい。
よかった、本当によかった。
泣き止まないさくらちゃんを抱き上げるとお父さんは私においでと手招きをした。どうやら中に入れって事らしい。お言葉に甘えてお店の中に入るとお店の中も絵本に出てきそうな雰囲気のお店だった。広い落ち着いた店内には光が溢れてとても明るく感じる。
天根さんが「こっち」とまた慣れたように私をカウンター席に座らせた。その私の隣に涙を拭いながらさくらちゃんが座った。カウンターの中にお父さんが入りながら天根さんと小声で何か話しているのが見える。
ようやく泣き止んださくらちゃんの前に持っていたあの紙袋を置いた。


「さくらちゃん、ごめんなさい言えた?」

「・・・まだ。」

「なら、これと一緒に言ってみたら?」


さくらちゃんは紙袋をじっと見つめると、黙って頷いた。
すると私の前にさくらちゃんのお父さんがやってきた。カウンター越しだが、確かに、こう、女性客が目当てにするのも分かる気がする。天根さんやあの黒羽さんとは違う感じのイケメンさんだ。


「改めて、さくらの父親の佐伯虎次郎です。ダビデから聞いたよ、さくらがお世話になったみたいで。」

「いえ、あの秋野紅葉です。天根さんのお隣に住んでます。」

「あ、彼女じゃないの?」

「えっ!?」

「違うって言ってるだろ、サエさん。」

「ははっ、ごめんごめん。」


さくらちゃんのお父さん・佐伯さんは笑顔でそう言うとさくらちゃんを見た。さくらちゃんは1度視線を外したが、ゆっくりと紙袋からとあるものを取り出してカウンターの佐伯さんの前に置いた。天根さんはさくらちゃんの横に座ると「あ」と呟いた。


「これ、昨日作ったって言ってたスコップケーキか?」

「はい、さくらちゃんと作ったんです。」

「さくらと?」

「はい、ね?」

「・・・うん、これパパにクリスマスプレゼント。」

「・・・。」


紙袋の中には昨日のあのスコップケーキ。違うのはちゃんとデコレーションをした事。あのさくらちゃんの持っていた金平糖とチョコレート、そして星とクリスマスツリーのアイシングクッキー。これはさくらちゃんと一緒にに作ったものだ。
佐伯さんはそれを驚いたように見つめているようだった。


「・・・ごめんなさい。」


そして小さくさくらちゃんがそう呟いた。また溜まっていく涙にハンカチを取り出そうとしたが、それよりも早くカウンターの向から佐伯さんがさくらちゃんの頭を撫でた。それにようやく本当に安心したらしく、さくらちゃんにようやく笑顔が見れた。


「・・・俺もごめんね。プレゼント凄く嬉しいよ。」

「・・・よかった。」

「折角だから、みんなで食べようか。さくら、向から星の柄のお皿持って来てくれる?」

「はい!ダビデくん!」

「俺も?」


さくらちゃんはそう言うと天根さんの手を引いてカウンター裏の厨房(?)に向かって行ってしまった。
残された私はどうしたら・・・。
そんな私に佐伯さんが柔らかい笑顔を向けてくれた。


「秋野さん、でいいかな?」

「あ、はい。」

「本当にありがとう。」


佐伯さんは二人の姿が見えなくなると、そう言って頭を下げた。それにおろおろしていると、頭を上げた佐伯さんがじっと目の前のスコップケーキを見つめた。その瞳は凄く優しい。


「プレゼントまで付き合って貰ってたなんて。」

「いえ、あの、部外者の私が言うのもあれなんですけどさくらちゃんの事怒らないであげてください。さくらちゃんなりにお父さんの事考えての事みたいなので。」

「うん分かってる、大丈夫だよ。正直俺も反省してるんだ。」

「反省、ですか?」

「そう、我ながら大人気なかったなーってね。いろんな奴に怒られたよ。」


佐伯さんはそう言うと後ろの棚から水色のラインが入ったカップを4つ取り出した。


「コーヒーと紅茶、どっちがいい?」

「え、じゃあ紅茶で・・・。」

「なら、ミルクティーにしようか。」


そう言うと佐伯さんは星のアイシングクッキーを手に取った。それはさくらちゃんが最初に作ったやつだ。そのまま口に運ぶ。


「パパ、もってきました!」

「さくら、走ると危ない。って、サエさんもう食べてる。」

「美味しい。」

「あたりまえです、だっておねえさんは魔法使いだから!」

「「魔法使い?」」


天根さんと佐伯さんの二人の声が重なってそう言ったので思わず吹き出してしまった。私はさくらちゃんが持ってきた星柄のお皿とスプーンを受け取ると、きょとんとしている男性二人をよそに二人でスコップケーキを分けることにした。


「さくらちゃん、よかったね。」


小さく私がそう言えば、今までで1番可愛らしい笑顔が返ってきた。

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