疲れた。
東京で働き始めてそろそろ1年が経とうとしていた。仕事にも慣れたし、人間関係も上手くいっていると思う。でも、なんか疲れた。
慌ただしく過ぎていく毎日はいつもと変わらない。同じ時間に起きて、同じ電車に乗って、同じ会社に行って、同じ仕事をして、同じ時間に帰る。
疲れた。
海が、見たくなった。
「眩しい・・・。」
休みの日、私は海に来ていた。学生時代よくこの辺りを散歩したなぁ。故郷の千葉の海はあの時と変わらず、広くて綺麗で、なんか泣きたいぐらい清々した。
靴を脱いで波打ち際を歩く。気持ちいいし、懐かしいなぁ。
学生時代は毎日のようにこうしていたのに。幼なじみのサエと一緒に。
サエは一つ下だったけど、あの頃は小さい頃からいつも一緒だった。帰りはいつも一緒にこの道を帰った。
浜辺の側にあるいつものベンチで待ち合わせて、いつもゆっくり歩いて帰った。ゆっくりゆっくり。
サエ。
サエとはずっとそんな関係だったけど、今思えば好きだったのかも知れない。めっきり連絡をしていない彼は、もしかしたら可愛い彼女が出来ていたり、はたまたもしかしたら結婚しているかもしれない。そうだ。きっとそうだ。だってあの頃から、あんなに素敵だったんだから。
『5さい。』
キラキラ輝く波打ち際にいつかのサエが見えた気がした。
・・・・はぁ、私は相当疲れているらしい。
気づいたらいつもサエと待ち合わせをしていたあのベンチの側だった。そうそう、ベンチの周りだけ視界が開けていて、丁度あんな風にサエも座って待っていたっけ。
「・・・・・・え?」
ベンチに誰か座っていた。座って本を読んでいる。潮風に揺れる柔らかなミルクティー色の髪。
サエだ。あの頃と同じように、サエがベンチに座っていた。間違いなく、サエだった。
私の視線に気づいたのか、サエが顔を上げた。ゆっくりゆっくり。あの頃と変わらない笑顔で、でも、どこか甘い顔で。
「おかえりなさい。」
そう行ったその言葉もあの頃と一緒だった。
気づくと私は泣いていた。
サエは立ち上がり近づいて、そんな私を優しく抱きしめた。
「サエ・・・。」
「あんまり遅いから、心配した。」
それもあの頃の台詞だった。昔からサエは、私に、
「サエは、」
「ん?」
「サエは、昔から、私に甘い、ね。」
サエの肩に顔を押し付けながらそう呟く。陽だまりの匂いと、海の匂い。私もサエの背中に腕を回した。
サエは私の髪に顔を埋めると、くすぐったがる私をよそに私の耳に唇を近づけた。
「もっと、甘えてなもらっても、大丈夫かな。」
「・・・サエ。」
「何?」
暖い。ずっとこの暖かさを忘れてた。
「ただいま。」
「うん、おかえりなさい。」
そう言って優しく私の涙を拭ってくれたサエが、キラキラしていて、凄く綺麗だった。
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