意外と大きかったモコモコしている猫のぬいぐるみを抱きしめる私を見て、部屋に戻ってきたヒカル君は赤いTシャツに着替えていた。そして私の前に座ると持ってきたタオルを私の膝の上に置いた。



「拭かないと、風邪ひく。」

「いろいろありがとう、ヒカル君。」

「・・・うぃ。」



モコモコの猫のぬいぐるみを隣に置くと、タオルで制服についた水滴を払った。
すっかり風邪が治ったヒカル君と一緒に勉強会をする事になった。でもその前にゲームセンターに寄ったらこの子がいた。思わずそのクレーンゲームの前で立ち止まった私に、ヒカル君はそれを簡単に取ってくれた。
雨が降ってきたのでそのままヒカル君の家にやってきたが、モコモコの猫のぬいぐるみを見ると嬉しくなった。だってヒカル君が私のために取ってくれたものだから。



「あ、それ、私があげたやつ?」


タオルを首にかけるヒカル君。着ているTシャツはヒカル君の誕生日にあげたものだった。あの日ちゃんと帰り際にプレゼントを渡した。プレゼントした無地の赤いTシャツはマネジャーさんのアドバイスされたものだった。Tシャツなら何枚あってもいいからと、ヒカル君のサイズもその時教えてもらった。
ヒカル君は上からパーカーを羽織ると、頭をかいた。



「・・・あぁ、気に入った。」

「よかった。」

「俺も・・・。」

「ん?」

「これ、そんなに喜んで貰えたら、取ったかいもある。」



ヒカル君はそう言ってモコモコの猫のぬいぐるみを手にした。お腹やしっぽを触りながら「でかいな」と呟く。



「友達が小さいキーホルダー持っててね、結構私の周りじゃ人気なんだよ。」

「そうなのか。」

「お腹にハートがあるんだよ、ほら。」

「本当だ。」


ぬいぐるみをくるっと回してお腹のハートマークを見せる。
ヒカル君はそれをじっと見つめると、それから私の方を見た。私がタオルをまた膝に戻すと、ヒカル君がモコモコの猫のぬいぐるみを私の方に向ける。そして両手を持って動かし始めた。



「やぁ、にゃんこだよ。」

「・・・ぷっ。」



いつもの表情ででも裏声でそう言いながら、ヒカル君はぬいぐるみの手を私に差し出した。そんな仕草に思わず吹き出してしまう。
私は笑いをこらえながらぬいぐるみの手を握り締めた。



「こんにちは。ふふっ。」

「よろしくね。」

「こちらこそよろしくね。」

「ぼくの事すき?」

「あはは、うん。」

「じゃあ俺とどっちが好き?」



急にいつもの声に戻ったヒカル君に、思わずぬいぐるみからヒカル君に視線を戻してしまった。
ヒカル君の表情はいつものままで、それを見てだんだん顔が熱くなる。



「ど、どっちも、す、好き、だよ?」

「・・・どっちもはずるい。」

「そ、その聞き方も、ずるいよ。」



私はモコモコの猫のぬいぐるみをヒカル君の手から奪うと、またそれを抱きしめた。そしてヒカル君の肩に突進して、おでこを肩に押し付けた。ヒカル君は「うおっ」と呟いて後ろに手ついた。



「・・・あのね、この前のラブレターなんだけど。」

「・・・・・あぁ。」

「あれね、人違いだったみたいなの。」

「・・・人違い?」

「うん。」



視線だけでヒカル君を見れば、驚いたように私を見つめていた。
私は右手をぬいぐるみから離すと、ヒカル君のパーカーの裾を掴んだ。



「体育祭の時、私が絢ちゃんと救護係代わってた時あったでしょ?」

「あぁ、そう言えば坂本の代わりにって言ってたな。」

「どうやら鈴木君がサッカー部の人に名前を知りたかったらしくて、その時救護テントにたまたまその時いてたまたま見かけた私の名前を教えたみたいで。」

「・・・じゃぁ、あのラブレターは・・・。」

「うん、絢ちゃんにだったみたい。」



あの後、鈴木君と見られる男の子がやってきて絢ちゃんに私の名前を呼んだ事で判明。絢ちゃんは笑って、鈴木君は照れていた。
私がそう言うとヒカル君は、私の頭に手を置いた。そしてため息をつく。今度は顔を上げてヒカル君を見れば、ちょっと顔を赤くさせたヒカル君がいた。



「・・・勝手に勘違いして、勝手に読んで、勝手にヤキモチやいて、本当にかっこ悪い、俺。」

「そうかな?私は、その・・・・ちょっと嬉しかったよ。」

「・・・・・。」



言い終わらないうちにまた顔をヒカル君の肩に押し付けると、彼はまたため息を一つ付いた。そして私のおでこにキスすると、私の手からモコモコの猫のぬいぐるみを私の腕から奪い返した。そして私の腰をぐっと引き寄せる。



「・・・俺とにゃんこのぬいぐるみ、どっちが好き?」



私の顔にかかる髪を払いながらヒカル君がさっきと同じ質問をしてきた。
本当に、ずるい。
私は体を離してヒカル君の首に腕をまわした。少し体を強ばらせたヒカル君に、私からキスをした。頬にだけど。



「おめでとう、お前・・・。」

「・・・ヒカル君の方が、好き、だよ。」



顔が熱い。私はヒカル君の首から腕を離すと、また顔を彼の肩に押し付けた。
ヒカル君は私の頭をまたわしゃわしゃと撫でる。ヒカル君も耳が赤かった。




「はぁ・・・本当にずるいな、お前。」



そう呟いたヒカル君は私の手を握った。
視線の先でモコモコの猫のぬいぐるみが床に転がっていた。

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