「で、これを姉貴が置いてバイトに行ったと。」
「うん。」
夕方近くに起きたヒカル君はすっかり熱も下がったようで、お姉さんが置いていったプリンを頬張りながらそう言った。
「・・・悪かったな、ずっといてもらって。」
「いや、なんか私もいきなり来ちゃってごめんね。」
「うん、まぁそれはいい。」
食べ終わったカップを机の上に置いたヒカル君は、座っていた私の横に場所を移動した。近づいた距離に思わず私から離れる。顔が熱くなった。
「・・・何で逃げるんだ。」
「いや、その、さ、さっきのさっきだから、つい・・・。」
「さっき?」
「・・・・も、もしかして、覚えて、ない?」
「・・・・・・・・。」
ちょっと青ざめたヒカル君に急いで首を振って訂正するが、顔が熱いままなので多分赤い顔の私を見てヒカル君は眉間にシワをよせる。
「なななな何もなかったよ?」
「・・・何かしたんだな、俺。いや、俺何したんだ?」
「いや、その、耳・・・。」
「耳?」
「耳、な、舐められてた、だけで・・・・。」
小さくそう言った私に、ヒカル君は顔を青ざめ、そして赤くなり、最終的に頭を抱え込んで机に突っぷしてしまった。
その姿にあたふたする私にどたどたと階段を登ってくる音が聞こえた。そして勢いよくドアが開く。
「ダビーデ!お見舞いに来たよ!」
やってきたのは葵君だった。突っぷしていたヒカル君はまだ少しだけ赤い顔を上げる。
「あ、やっぱり誕生日さんも来てたんですね。」
「こ、こんにちわ。」
「こら剣太郎、ノックもしないでいきなり入ったらダメだろ。」
葵君の後ろからそう言って佐伯先輩が現れた。その後ろにみなさんも揃っている。
「それに、もしいいところだったらどうするんだ?」
「いいところ?」
「・・・サエ。」
マネジャーさんもいて、彼女が佐伯先輩の頭を叩く。その後ろから黒羽先輩がやってきてヒカル君の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「どうだ、ダビデ?熱下がったか?」
「というかダビデどうしたの?ダジャレが不調なの?」
「ダジャレはいつも不調なのね。」
「ちょっと、自己嫌悪におちいってるだけ。」
「・・・・本当にどうしたの、ダビデ?」
「あぁ、あの!皆さん揃ってヒカル君のお見舞いですか?」
「ふふふ・・・それだけじゃないんだなぁー。」
葵君はそう言うと樹先輩が持っていた紙袋を机の上に置いて、袋から箱を取り出した。そして箱を開くと、どこから取り出したのか音だけクラッカーを鳴らした。
「ジャーン!樹っちゃん特製のバースデーケーキだよ!」
「今日はダビデの誕生日だか、張り切って作ったのね。」
「樹っちゃん!!」
「誕生日さんもきっといるだろうから、ケーキ持ってダビデの家行ってお祝い兼、誕生日会もやっちゃおうって思ってね。」
ケーキにロウソクを指しながらマネジャーさんがそう言うと、ヒカル君はようやく体を起こした。そして火がついたロウソクを吹き消すと、拍手がおこる。
「ダビデ、誕生日おめでとう!」
「おめでとう。」
「・・・うぃ。」
ヒカル君はようやく嬉しそうに笑うと、皆さんは机の周りに座り始めた。必然的につめる事になり、ヒカル君とまた距離が近くなる。一気に賑やかになった部屋で、ヒカル君を見れば嬉しそうな彼と視線があった。
「ヒカル君、誕生日おめでとう。」
「・・・ありがとう。」
いつの間にか綺麗に切り分けられたケーキが前にきて用意してあったフォークが配られる。
そうだ、まだ私の誕生日プレゼントをヒカル君に渡していない。でも帰る時に渡そう。
今は私もヒカル君が嬉しそうにする姿が見れればいい。そう思いながらヒカル君の手に触れれば、何も言わずに優しく指を絡めて握り返してくれた。
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