「痛っ。」 デコピンされてじんわり痛くなるおでこを押さえると、楽しそうに笑う日吉君が見えた。 「お前本当にどんくさいな。」 「い、いきなりはズルいよ。」 「ぼけっとしてるお前が悪い。貸し出し。」 我に返るとカウンターの前には本を持った日吉君が。急いで貸出をすると、本を日吉君に手渡す。 「お待たせしました。」 「1人なのか?」 「え、あ、うん。」 「ふーん。」 日吉君はそう言うと私の横の席に腰掛けた。驚く私に日吉君は私が見ていた本を取り上げる。 「絵本か?」 「うん、ハロウィンの本なんだ。」 「ハロウィンか・・・。」 「あ、聞いたよ。今年も跡部先輩主催でハロウィンパーティーがあるって。」 「・・・誰から聞いた?」 「鳳君。」 「ちっ。」 前に文化祭で日吉君が魔法使いの格好をしてたけど、今年はどんな格好をするのかな? そんな事を考えていると絵本を閉じて私に戻した日吉君が顔を私に近づけてきた。 「お前、今余計な事考えてただろ?」 「か、考えてないよ!」 「どうせ、今から貰える菓子の事でも考えてたんだろ?お前は食い意地はってるからな。」 「ち、違うよ!」 「じゃあ何だよ。」 「前にやったひ、日吉君の魔法使い可愛かったから、今年は何やるのかなーって考えてただけ・・・。」 うつむいてそう言う私に日吉君は目を丸くさせた。そして私から離れると、頬杖をついてそっぽを向いてしまった。 「・・・く、下らないこと考えてないで仕事をちゃんとしろ。」 「うん。でも、今年はどんな格好するの?ドレスコードが仮装なんでしょ?」 「ちっ、それも鳳からか。」 日吉君はそう呟くと、ポケットから何か取り出して絵本の隣に置いた。 「貰っていいの?」 「・・・今決めた。お前も跡部さん主催のパーティーに出ろ。」 「えっ!?いや、部外者だから無理じゃ、」 「1人ぐらい増えたって大事だろ。」 「な、何でいきなり?」 「・・・・たいからだ。」 「え、よく聞こえないよ。」 「・・・ちっ。」 日吉君は舌打ちすると、さっき絵本の横に置いた何かを手に取った。封を切るとそれはチョコレートだと分かる。 日吉君はそれを私のぽかんと空いた口に押し込むと、また顔を近づけた。 甘く広がるチョコレート。 「・・・俺が、キャンディの仮装見たいからだ。悪いかよ。」 そう言ってまたデコピンした日吉君の顔は赤かった。珍しい。 またおでこを押さえると、今度は乱暴に頭を撫でられた。照れているんだ、本当に珍しい。 私はなんだか嬉しくなって日吉君の服の裾を掴んだ。 「・・・日吉君。」 「何だよ。」 「と、トリックオアトリート。」 「チョコならもうないぞ。」 「チョコじゃなくてもいい、よ。」 「あげられるのがあるにはあるが・・・それやったらパーティーは強制参加だからな。」 「うん。」 「・・・単純だな、お前。」 日吉君はそう言うと私にキスをした。 そしてまた頭を撫でると「跡部さんに連絡をする」と言って立ち上がった。 さて、何の仮装をしよう?どんな仮装なら日吉君喜んでくれるかな? 私はそう考えながらハロウィンの絵本をまためくった。 /2014HALLOWEEN\ |