恋の駆け引きというやつがある。
最近読んだ雑誌に特集されていたそれは、今の私とは真逆の事が書いてあった。


メールの返事は直ぐにしない。
・・・いつも直ぐに返事してる。
他の異性と仲良くしている所を見せる。
・・・むしろこっちが見せつけられている。
急にメール・電話するのをやめる。
・・・いつも急にメールや電話している。
大勢で会う時と2人で会う時の態度を変える。
・・・どっちもまったく一緒だ。


この結果に落胆するが、これからすぐにでもできそうな恋の駆け引きが書いてあった。なのでそれを実行しよう。うん、それがいい。




『自分、跡部と何かあったん?』

「え?」



久しぶりの忍足からの電話に、私はポカンとした。



「いきなり何?」

『昨日跡部と会った時、あいつめちゃめちゃ機嫌悪かってん。喧嘩でもしたんか?』

「喧嘩なんてしてないよ?というか最近会ってないし。」

『じゃあ怒らせるような何か言うたんか?』

「いや、何も・・・ってか跡部怒ってるの?」

『めっちゃイライラしとったで。』



私の彼氏は跡部景吾。泣く子も惚れる跡部財閥のお坊ちゃまだ。大学はイギリスに行っていたがようやく最近戻ってきたが、多忙故になかなか会えていなかった。電話はしたけど。



『今日跡部の誕生日やろ?ちゃんと仲直りしといた方がえぇで。』

「仲直りも何も、喧嘩じゃないし、不機嫌な理由まったく分からないし。」

「あーん?」



聞き慣れた声がしたかと思ったら私の手からスマホが消えていた。視線を上げると、噂をすると何とやら、そこには跡部様の姿が。
思考が停止する私をよそに跡部が私のスマホに耳をよせる。



「忍足、悪いが後にしろ。」



跡部はそう言うと私のスマホを操作すると、私の手首を掴んだ。そして足早に歩き出す。



「ちょっ、跡部。」

「黙って付いて来い。」


しばらくすると黒塗りの豪華なリムジンが現れた。かと思ったらそのまま背中を押され、開いたドアから中へと連行される。リムジンの中はやたら広い。これ本当に車?
跡部も運転手さんに何かを伝えると、リムジンに乗り込む。そしてゆっくりと動き出すリムジン。端から見たらこれ完全に誘拐だよ、誘拐。



「あ、スマホ返してよ。」

「・・・お前は俺の返事も返さねぇし誘いも断るくせに、忍足とは話すのか。」

「え?」



跡部はそう言うと私のスマホをぽーんと私に投げて返した。慌ててキャッチする私に跡部は長い脚を組む。



「え、本当に怒ってるの?」

「別に怒ってねぇよ。」

「でも不機嫌でしょ?」

「・・・何で俺が不機嫌か分かって言ってんのか?」



忍足が言うように跡部は確かに不機嫌だ。いつもよりなんかピリピリした空気だし、ちょっと眉間にしわもよっている。喧嘩した記憶もまったくないけど何故跡部は不機嫌?
腕を組んで考える私に跡部は長いため息をついた。



「・・・一昨日デートの誘い素っ気なく断っただろ。それに昨日のメールの返事もすっぽかしやがって。」

「え、それで不機嫌だったの?」

「あーん?」

「ご、ごめん。でもそれは駆け引きの一環であって・・・・あ。」

「駆け引き?」



私がそう言うと跡部が目を細めた。
雑誌に書いてあった恋の駆け引き。私にもすぐにできそうなもの、それは『誘いをたまには断る』ことと『急に素っ気ない態度をとってみる』ということ。
いつも誘いは必ずのっていたし、正直跡部にはベタベタだった。



「・・・ってな感じで、あの、ちょっとは私も恋の駆け引きとやらをしてみようと思いまして、それで・・・。」

「俺の誘いを断って、素っ気ない感じにメールも無視したと。」

「・・・はい。」

「・・・アハハハ!!」



正直にそう言った私に、跡部は笑い出した。そりゃもうお腹を抱えて。ようやく立ち直った目にはうっすら涙が浮かんでいる。



「・・・爆笑する事ないじゃん。」

「この俺様を駆け引きに誘おうとした事は褒めてやるよ。だがそんなやり方じゃぁダメだ。やるなら・・・。」



跡部はそう言って私に近づくと私の肩を押した。やたらふわふわのシートに倒れ込むと、私に覆い被さるように跡部が見下ろしてくる。



「まず45p以内に入らねぇとな。」

「45p以内?」

「まぁ個人差はあるが、大体の奴のパーソナルスペースがそれぐらいだからな。」



跡部はそう言うと私の頬を撫でた。ピリピリとしていた空気がいつの間にか甘ったるい空気に変わっている。



「そして黙って手を握る。」



言いながら私の手に自分の手を絡める。つり上がった唇が近づいてきて、優しく私の唇に重なった。
・・・あぁやっぱり、跡部の方が恋の駆け引きは何倍も上手だ。
何回か触れるだけのキスをして、絡まった手に力をこめる。



「あ。」

「・・・何だ。」

「跡部、誕生日おめでとう。」

「・・・ムードねぇな、秋子。」

「誕生日プレゼント置いて来ちゃったから、後で渡すね。」

「ふっ、やっぱりお前はそのままで十分だ。」



跡部は甘くそう言うと優しく笑ってまた私にキスをした。

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